第六章 絶路 chapter05
いくつかの事実認定の調書には浩志も治もサインはしてしまったが、最終的に自供とされる供述調書は「否認」のまま、木賊の2人は検察に送致された。
「勾留は決定的だ。第2ラウンドがあるさ」
移動を入れて逮捕から47時間30分後、木賊浩志と治は東京地検へと送致された。手錠をかけられ、腰縄で繋がれた姿は、もはや憔悴しきった囚人のそれだった。灰色の壁に囲まれた取調室。治は、長机の前に座らされていた。担当らしき検事が「東京地検公安部副部長の原田と申します」と名乗り、簡単な権利説明が済まされる。原田の机には調書や警察からの調書や実験資料、青い封筒などが見える。
「木賊治さん。違法と知りながら経産省の承認を回避し、製品を輸出しましたか? 警察からの調書では否認している」
「私の考えが、伝わらずに、警察の方で」
「改めてお聞きします。輸出したマイクロリアクターが軍事転用可能な技術を含んでいたこと、経産省の承認を意図的に回避したこと、これは事実ですね? それを認めた調書にはサインがある」
原田は、まるで答えを知り尽くしているかのように、淡々と問いかける。
「警察での取り調べでは、あなたは最後まで容疑を認めず、一部の供述調書へのサインも拒否した。なぜですか? 不当な取り調べがあったとでも? トクサのリアクターは神経ガス生成の性能を持っていたんですよね? 生成実験結果もご存じのはずだ」
原田の声に、微かに嘲りが混じる。
「いえ……その、不当というか——」
治は言葉を探した。
「ただ、私たちは違法な輸出をしたつもりは——」
「法は『つもり』では判断しません。結果と客観的証拠で判断します」
「木賊浩志さん、ここでは事実を伺います。実験の結果、トクサのリアクターで強酸、強アルカリ、ある種の有機溶剤の反応実験は成功しました。警察で聞きましたね?」
「……はい」
「経産省の承認は、取っていませんね?」
「……はい。しかし医療研究目的で——」
「医療研究であれば、なぜ経産省の承認を得なかった? コンサルタントの助力があったとは言え、責任は経営者であるあなた方にある。あるいは、あなた方が承認回避を指示した可能性すらも」
「私らの製品は、医療などの目的にしか使えないんです」
「この青い封筒に入っていた告発文には、トクサのリアクターの性能や輸出ルートが細かく書かれている。この内容はあんた方も警察で確認したんですよね?」
内容が「正しいかどうか」には触れないあたり、原田はいやらしい。
「証拠も事実も確認済み、あなた方は確かに技術を売ったんだ。にもかかわらず、否認。そうですか」
原田は調書をまとめ、隣に座る事務官に告げた。
「勾留決定、裁判所に申請を。証拠隠滅の恐れがある」
これから10日間、延長してさらに10日間。木賊親子は再び原宿署へと戻されることが決定した。早瀬の言った第2ラウンドだ。異議を申し立てる者はいない。この段階で弁護士を呼んでいれば……後日、ある女性弁護士が事務所で窓の外を睨むことになる。




