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第二章 潜竜 chapter04

「竜崎検事、またきな臭い事件が上がってきましたね。先日のドローン不正輸出事件と同じケースでしょうか」

同じケース……国家安全保障局といった〝筋〟は、目立つ成果を必要とする際、特捜部の動員を求めることがある。派手でテレビでの報道効果もあり、また特捜部の情報戦……報道や世論の扱いの巧みさに期待しているからだ。薫子ら現場の検察官の耳にも、上の方から「経済安保」「不正輸出に厳しい対応を」という声が聞こえてくる。

ここ数年、国の体制が変わり、政府機関の主要ポストには警察官僚が据えられた。国防、特に情報戦に政府が本腰を入れ始めたということだ。警視庁公安部に第七課が「予備枠」とはいえ増設されたことも、その一環だ。そして先日のドローン不正輸出事件は、本来は東京地検公安部マターだったが、特捜部にご指名が掛かったケースだった。

「あの事件は、輸出先でどのように使用されるかを示したメモが出てきたから立件も公判維持も難しくはなかった。松本も『証拠からストーリーが見えるようだった』と言ってたでしょう。外事二課の捜査は多少際どいところがあるけど、さすがというか何というか」

先日のドローン不正輸出事件を捜査したのは公安外事二課だった。つまり七課はまた手柄を上げ損ねた格好だったのだ。

「野添さんもお尻に火が着いてきたころかしら。かなり突っ込んだ捜査をするでしょうね。送致されてきたら……といっても上が決めることだから、それまでは知ーらない」

大きく伸びをする薫子だった。

「そうですね」

大きな裁判をこなす度に、階を上がっていく手応えがある。だからこそ、松本の発した返事は、短く力強い。しかしその階の存在を、より強く感じているのは、誰あろう、この薫子であった。

「〝法律の前における自由〟は〝竜の前における平等〟という表現を政治的に翻訳したものである」

「なんです? それ」

「ヴィクトル・リュウゴーの言葉」

「……誰です? それ」

薫子が答える前に、ドアがノックされた。石田事務官が戻ってきたようだ。松本の問いは、部屋のエアコンの風に乗って、消えていった。


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