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9話 辺境での活躍と改良型

 T-1戦車が正式に軍に採用されて一年、私の妊娠が発覚した。

 本当はもう一年ほどは我慢したかったところだし、気を付けてはいたのだが当たってしまったようだ。

 現世には避妊具はあるが前世のように確実ではないし、貴族令嬢として使うのが憚られるものも多かった。

 避妊薬のようなものはあったが、人体に有毒なものなのがわかっていたため使わなかった。

 しれで求められれば安全日だったら大丈夫だろうと抱かれていたので、自然の摂理だったのだろう。

 ちなみに、アンドレには弟か妹ができるとわかったとたん大はしゃぎだった。

 彼は秋から貴族学校に通うためにすでに王都に住んでいる。


 私の妊娠が発覚するまでの一年でT-1戦車は実に百両も生産された。

 当初、辺境伯家に十両ほど供与し、追加で軍の魔物討伐部隊への配備が行われたのだが、その効果は絶大だった。

 搭乗口の変更や整備用の開口部の変更など多少改良がくわえられたT-1の初期型は、その機銃の威力と防御力と機動力をいかんなく発揮し、大型の魔物に対する殲滅力は辺境伯自身をも戦慄させたという。


 誰一人負傷することなく、大型の魔物を倒してきた兵士たちも絶賛だったが、やはり実戦で使う上での問題点も明らかになった。

 特に問題となったのは足回り。

 厳密には魔道エンジンと駆動輪をつなぐシャフトとミッションの損耗だった。

 これは私の落ち度でもある。

 魔道エンジンはどちらかといえば電気モータのような性質があるにもかかわらず、私はトランスミッションとシャフトを組み合わせ、車体後部に配置したエンジンと駆動輪を接続していた。


 そしてミッションをはじめとするギア周りの不具合が頻発することになった。

 やはり、工作機械のレベルが低く、まだ鍛造用引抜き素材の品質などから難しい部分があったのだろう。

 急制動などによりギアが摩耗し歯が欠けたし、クラッチ操作には相当なパワーが必要で、クラッチレバーをハンマーでたたいて切り換えるなんてことも現場では起こり、T-1の操縦手は一回の出撃で3kg痩せるなどと言われてしまった。

 まるで前世のT-34だなと私は閉口してしまった。


 演習で発見できなかったのは、全速力で長距離を移動してこなかった為。

 実際、演習場にいたT-1のミッションを分解したところ、見事に鉄粉まみれで、もうすぐ壊れるというものも何個か存在していた。


 実際、辺境で使い始めた当初は良かったものの、二度目の出撃の時にはすでに半分が不具合により全力が出せず、整備も大変なため苦情が飛んできたという状態だ。


 結果、即改良案を出し合い、魔道具師ハインリッヒと物理学者ミヒャエルの二人は、魔道エンジンの駆動輪直結式を編み出した。

 大型の魔道エンジン1個ではなく、2個の小型魔道エンジンをそれぞれの駆動輪に直付けした。

 結果、最高速度は27km/hと多少落ちて直進性が悪化したものの、ミッションが無くなったことで軽量化と、超信地旋回能力を手に入れた。

 そして、レバーブレーキによる操縦がハンドルとフットペダル式に改められ、操縦性が改善。

 こうしてT-1A2とされた改良型に順次改装され、辺境伯以外でも魔物防衛用に配備したいという事で、通算百両もの受注につながった。


「キャロルのおかげでシュミット領での新たな雇用が生まれた。サスペンションや履帯などの整備部品は常に必要だし、修復不可能な損耗車両が出ればさらに生産もされる。なかなかの利益だ」

「それはようございました。ところで、他国の動向はいかがですか?」

「すでにバーデン王国の外相あてに問い合わせが数件来ている。特に同盟関係にあるデュッセル王国から供与の要請があった」

「あの国は工業国家ですからね。私たちもかの国から工作機械や機械加工部品など輸入しておりますし、今後も盟友として関係を維持したいのでは?」

「そうだ、それに輸出がなれば我が家も、ルイザン家も儲かるだろう」

「そうですわね。多少のデチューン……他えばあえて改良前のT-1A1を輸出するなどいかがです? 整備部品でさらに儲かります。 まぁ向こうが勝手に改良する可能性もありますが」


 現物があれば改良は簡単だろう。

 すぐにでもA2仕様と同等のものに現地改良されるかもしれない。


「その方向で外相に提案してみるか……同盟国同士の防衛力が高まるのはいい事だからな」

「かの国は重工業化が進んでいて周辺から見てもおいしそうな国でしょう? 戦うよりは協力関係を築いておいたほうがいいわよね?」


 私の質問にフリッツが頷く。

 実際両国間での合同演習などは実施しているので、関係は良好だ。


「ところでキャロル。少しは仕事を休んだらどうだ?」

「つわりがひどいときは休んでるわよ」

「ふつうのご夫人は妊娠したら静かに過ごすものなのだがなぁ」

「多少動いていたほうがいいのよ。私は別に現場に出るわけではないのだし」


そんな会話をしながらも私は次世代機の基礎設計に入っていた。


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