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8話 色気のないデート

 結婚から半年、今のところ妊娠の兆候はない。

 まだ十七歳という事もあり、あまり本気で子供を産むつもりがないため、いろいろと対策はしているしフリッツにもそのことは話していおり納得してもらっている。


 そして、結婚前は余りデートらしいこともしなかった私たちが、この日珍しくデートとして外に出ている。

 だが訪問場所が軍の演習場であるので、色気は何もない。

 デートと称しているのは私だけで、フリッツからは軍の視察への動向をお願いされたというだけだ。


「本当にこんなことでよかったのか? 植物園だとか最近できた水族館とかあるだろう?」

「私は戦車が好きなのです。ルールを破るための兵器! 思い描いていたものが目の前で動き回るのですからそれを見たいというのは当然でしょう? そしてフリッツと一緒に好きなものを見る。十分デートではないですか」

「せめて戦を舞台にした観劇ぐらいにしてほしかったな」


 若干あきれられているところもありますが、フリッツ自身もまんざらではなさそうだ。

 自分が働いているところを間接的にでも見てもらえるのは心が躍るのだろう。


『ただいまより、塹壕突破演習をご覧に入れます。三両のT-1戦車と二両T-2兵員輸送車による浸透戦術をお見せいたします』


 演習場で司会をする士官が拡張音声の魔法で演習の概要を説明してくれる。

 敵役は第一師団所属の第1大隊が担う。すでに塹壕を作成し立てこもっている状態だった。


 そこにまず魔導士たちが大規模攻撃魔法を射かける。


 すると、塹壕各点から防御魔法陣が発動しその効果を相殺していく。

 演習であり相手側の魔法の威力も事前に周知されていることから完全相殺しているようだ。


『このように、塹壕に対する魔法攻撃はほとんど意味を成しません。そこで歩兵と戦車による浸透戦術による突破を行います』


 アナウンスの後、戦車隊と兵員輸送車が前進してくる。

 T-2兵員輸送車はT-1の車体を活用して前後を入れ替え、エンジンが前側に来るようにし車高も砲塔分増やしてあり、中腰で6名の隊員が後部から乗り込める。

 戦車に追従して作戦地域で下車して歩兵戦闘を行う。


 計五両の車両が砂を巻き上げながら進んでくる。


 履帯は十分な性能を発揮して地面に食いついているようだ。

 そして音が静かだ。履帯のこすれる音はするがエンジン音は小さい。

 魔道エンジンが魔力を直接回転運動に変えているからこそディーゼルエンジンのような唸る音というのをあまり発さない。

 戦車たちは敵塹壕に近づく前に一度停止、兵員輸送車から二小隊が降りてくると、双眼鏡などで敵陣地を偵察する。


 塹壕陣地の弱い部分、又は防御が強い部分を確認していくのだ。

 観覧席からみると多少俯瞰で観れてしまうため、塹壕の手前には一部に大きめの溝がほられ、それが戦車塹壕まであることがわかる。

 そこは突破不可だ。歩兵たちは隠れながら敵陣地を偵察し通り抜ける場所を探している。


「上から見ればわかりますが、兵たちがいる位置から塹壕全体の様子は把握できるのですか?」

「完全ではないが、ある程度分かる。例えば草の生え方などから塹壕の幅や全長を把握したりする。

 どうしても塹壕の上に草木はないからな」

「それならいっそ草を全部刈り取ったほうがわかりくいという事ですかね?」

「それはそれで塹壕の場所がわかる。起伏があるから、何かあるとわかるはずだ」

「なるほど、そのあたりの戦場での物の見え方は私にはわからないですわね」

「専門の訓練を受けなければわからないだろうな」


 私たちの会話をよそに演習は進んでいく。

 敵陣地の偵察を終えた歩兵たちは再び兵員輸送車に搭乗すると、戦車を先頭に車列が動き出した。

 敵陣地の一番弱いところ、地形の関係上どうしても相互支援できない箇所というのは存在するため、そこの一点突破していく。


 途中戦車搭載の機銃の音が響き塹壕から白旗が上がる。塹壕側からも37mm砲の模擬弾が発射され、側面に命中した戦車が撃破判定をもらった。


 だが、戦車を撃破した迫撃砲に対して戦車隊が射撃を行って反撃し、撃破していた。


「かねがね思い描いていた通りの戦術です」

「軍内部でもかなり議論や演習を行ったからな。これなら敵塹壕を突破できる」

「旧態依然とした軍相手には十分に効果的でしょうね。次の課題は、相手がこの戦術を使ってきた時のこちら側の防御ですわね」

「そちらの研究はこれからだ。あと、T-1はそのまま量産することが決定した」

「え、あんな中途半端な戦車をですか!?」

「キャロルの中では中途半端なのかもしれないが、対魔物相手には十分すぎる性能だ。走破性もあり馬でいけるところならほとんどの場合T-1で入っていける。 何より20mm機関砲はもともと対魔物討伐の為のものだぞ?」

「そ、そうなのですね……」


 私はこの世界に魔物がいることを失念していた。

 そもそもなぜ魔法があるのか? それはこの世界において人々が魔物に対抗するために生み出したものであり、その発展の中で人同士の戦いにも使われるようになった歴史がある。

 最近では魔物の被害というとシュバルツヴァルト周辺の被害であり、バーデン王国辺境の一部地域が該当している。


「つまり、辺境伯に配備されると?」

「国防の為にもそのほうがいいだろう」

「確かにそうですわね」


 こうしてT-1戦車は訓練結果から多少改良されて量産されることが決まった。

 魔物との実地訓練によって問題点が洗い出せれば、開発にフィードバックもできるだろう。

 

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