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7話 シュミットドクトリン

 バーデン王国軍議会は熱気に包まれていた。


 ひと月前にフリードリッヒ・フォン・シュミット少将より提出された次世代戦術とそれに付随する新兵器についての論文が軍内部に議論を巻き起こしていた。


 そして今日はシュミット少将自らが説明を行う日であった。


 シュミット少将はメクレンバー大将の元、軍の近代化委員会の一人として兵器開発の責任者として活動していた。

 その彼が兵器開発だけではなく、戦術……総合的に見れば戦略的知見で次世代の兵器体系まで示して見せたというのが軍での評価だ。


 もともと発想力があり、その爵位と合わせて実効性のある彼は、近いうちに中将に上がるとも言われており、仮に今回の提案が採択されれば、それは確実になると言われている。

 最近再婚したこともあり、誰しも彼が順風満帆に見えていた。


「それでは、これより、シュミット少将の提出した次世代戦術論についての公聴会を行う。シュミット少将、まずは概略の説明をお願いできるか?」

「わかりました」


 議長のメクレンバー大将の指示でシュミット少将は提出した次世代戦術について説明していく。


「現在、わが軍は近代化のため”塹壕戦”についての知見を得るために実地演習などをおこなっておりますが、塹壕の突破が困難であることは皆様もご存じのことと思います」


 すでに何度か行われている演習において、王国軍は塹壕を突破することはかなわなかった。

 正面から突撃すれば、相互に警戒し援助できるように作られた塹壕戦を前に歩兵も騎兵もすべてが撃破判定となり、極大魔法による攻撃も有効だとは判定されなかった。


 夜間直接塹壕内に侵入することである程度の打撃を与えられた結果もあるが、侵入した兵たちは塹壕内で囲まれ結局撃破判定となった。


「そこで、現在我が家で開発中の戦車を使い、敵塹壕戦の一番弱いところを歩兵と共に突破、敵司令部を一気にたたく、これを浸透戦術といいます」

「つまり、塹壕自体を破壊するのではなく、無意味化するという事ですか?」


 一人の将兵が質問を投げる。


「そのとおりです。塹壕は強固ですが、後ろを取れば弱いのは人と同じ。しかも、塹壕戦を前進させることは困難なため、双方にらみ合うだけの戦いになってしまう。そこで一点突破し開口部を押し広げつつ敵大将を狙うわけです」


 そこで問題となるのは、歩兵が同じ速度で移動できるか? という事になる。

 現在開発中の兵員輸送車は装甲によって歩兵を守りつつ、戦車と等速で移動し展開するためのものだ。

 戦車だけでは敵陣地を占領はできない。

 敵の抵抗を可能な限り戦車でつぶし、追従した歩兵でもって占領する。それが定石となる。


「そして、この戦術の問題点は相手に同じことをされた場合、現時点で我々は防ぐことができないという事です」

「それは防ぐ手立てがあると聞こえるが?」

「ございます。戦車は何も塹壕突破の為だけに使うわけではありません」


 シュミット少将は、ここで電撃戦と機動防御について説明する。

 敵が戦車を主体とする快速部隊で攻めあがってきた場合、塹壕などを無意味化し一気呵成に前線司令部どころか王都までやってくる可能性が高い。

 それに対処するには同じく戦車部隊にて、敵戦車を待ち受けるために迅速展開して予想進路上で待ち伏せる必要がある。


「そのためにも、軍の近代化は必要となります。我が国で出来ることが他国で出来ないわけがない。過去の歴史を紐解いてもその事実は変わりません。王国を守るためにも今こそ戦術の転換と兵器の更新が必要なのです」


 シュミット少将の説明に拍手を送る一派もいれば、無言の圧を発する集団もいた。

 軍とて一枚岩ではない。特に保守派と呼ばれる馬に乗り、騎士の一騎打ちが戦場の花と思う古参の将兵は少なくはない。


 だが、近隣国での戦争へ観戦武官として赴いた者たちは、総じて次世代戦術について肯定的だった。

 なにより、不満があっても古参の将校達は、文句を態度に出せても言葉にできる雰囲気ではなかった。

 シュミットドクトリンと呼ばれるこの戦略はバーデン王国の王太子が特に気に入っていたからに他ならない。


 王太子に少々甘いところがあると言われる国王も、すでに王太子に説得されており、この次世代戦術はほぼ採用決定という状態での、公聴会であったからだ。

 やらずに決めるより、後から揉めるぐらいなら実施だけはするという公聴会だったと言える。


「シュミット少将、ご苦労。では本会議での採決を行う」


 メクレンバーの締めの言葉で採決が行われ、賛成多数でこの戦術は可決され、シュミットドクトリンとしてバーデン王国軍の新しい戦略と兵器開発方針がこの日決定した。


「これで、キャロルに顔向けできるな」

 誰にも聞こえぬようぽつりと呟いたフリードリッヒは実にやり切った顔をしていた。

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