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5話 試作車の完成

 半年というのはあっという間に過ぎてしまう。


 その間、侯爵領へ挨拶に行った。


 侯爵領へ行く前に、フリッツからドレスや装飾品が送られてきて、それを着用しての訪問となった。

 貴族令嬢として普通のお付き合いをさせてもらえたことで心が軽くなるのを感じ、いまだにダメージが残っていたのかと自覚したほどだ。


 王都から二日ほどの距離にある領地屋敷にお邪魔し、義理の息子と義父母にもご挨拶をした。

 無事に歓迎されての訪問だった。

 義息子であるアンドレアスは来年からタウンハウスに住み貴族学校に通うという。

 つまり、フリッツ、私、アンドレとしばらくは三人で過ごす事になる。

 義父母はまだまだ元気で、領地経営のことはしばらく任せろと心強いお言葉をいただいた。

 

 そして、結婚式まであと数日というところで、詳細設計が終わった試作戦車の一台が侯爵家のタウンハウスに届けられた。


「これが、試作車T-1です」


 自信満々にハインリッヒが説明してくれた。

 当初は正面装甲50mmを目指していたが現実はそこまで甘くなく、魔道エンジンの馬力からそれなりに制約があった。


*************************************************************************

 試作戦車T-1 緒言性能

 車体:正面20mm、側面8mm、背面5mm 防御魔法付与

 砲塔:10mm(曲面・防御魔法付与)

 武装:12.7mm機関砲1丁

 乗員:3名 操縦手 戦車長兼砲手 装填手兼魔道エンジン制御手

 最高速度:30km/h

**************************************************************************


 車体の装甲は垂直ではなく30度ほど傾斜させたことで、王国が標準装備している37mm迫撃魔道砲を距離500m以上で防げる。側背面では防ぐことができないが、正面の爆発で損傷しない程度には防御力を確保している。

 主砲は軍が開発中だった12.7mm機関砲。垂直20mmの鉄板ならば余裕で貫通できる魔道弾が装備できるが、T-1に向けてだと正面では弾かれてしまう。

 車両が小さくあまり大きな砲を載せられなかったのもあるが、小さいながらも全周旋回砲塔と出来たのは大きい。

 形状は小さなT-34の車体に同じく小さいT-55の砲塔が乗っているといった形状で、私が似せて設計したのは言うまでもない。


 全長3m、車幅1.5m、全高1.2m、大体1/2サイズのT-34で、砲塔は鋳造にて作成したひっくり返したお椀型をしている。また、足回りは前世でいうクリスティー式サスペンションだ。これはミヒャエルが考案した。

 装甲形状の計算と共に彼にはずいぶんとお世話になった。ばねの製造に手こずったりもしたが何とか形になってくれた。

 最高の出来とは言わないがマズマズといったところだろう。


「思ったよりも大きいな」

「私は小さいと思っています。まぁ初めて作った形ですから、これで評価を行って改良してく必要があるでしょう」


 現物を見たフリッツは大きいと思ったらしい。

 だが、前世の戦車を知っている私からすれば豆戦車とは言わなくとも軽戦車のようだと感じていた。


「馬と競走した結果、最高速は馬に軍配が上がった。だが速度の持続力は戦車が圧倒的だ。馬は早く長くは走れない」

「そのための機械化ですからね。魔力は足りましたか?」

「課題はあるが何とかなるだろう。魔法が使えなくとも魔力がある平民はいる。エンジン制御手として確保できれば何とかなる」


 魔道エンジンの燃料は魔力そのもの。

 平民には魔法は使えなくても魔力を持つ者は多くいる。

 程度の差はあるが、エンジンに装着した魔石に魔力をためておき、エンジンへ魔力を注入してやれば、エンジンは魔力切れまで動き続ける。


 燃料タンクを考えなくて済むというのも、今回の戦車を小さくさせた要因の一つだ。

 ただ、エンジンの馬力が上がれば上がるほど必要となる魔力量は増えてくるだろうと予測されている。低燃費化してほしいがこればかりは現実のエンジンと同じようで、直接エンジンに装着した魔石に魔力をためる以外に、事前にチャージしていた魔石をセットする方式など、よりコストがかかる方法を取らざるを得なくなるだろう。

 出来る限り、人からの魔力供給で動くようにしておきたいところだ。


「ところで、キャロル。一週間後には王都の教会で結婚式だが、本当にこのまま結婚するのか?」

「いま結婚しませんといったところで私は生きて帰れませんでしょう? それにお会いした時点で覚悟は決めています」

「ははっ、あまり愛があるとは言えないが、キャロルらしいとも思う」

「愛だけではだめです。お互いに”信頼”のある関係でいましょうフリッツ」

「そうだな、キャロル」


 フリッツが私の隣に立ちそっと肩を抱いた。

 人のぬくもりというのは好きな相手であれば安心感があるものだ。

 実際、今後の軍の方針を左右する提案をし、それが頭の中に完璧に入っている私は今更逃げることはできない。


 とはいえ、フリッツは最後まで気を使ってくれたのだろう。

 その心意気に私は正直惚れてしまっていた。

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