最終話 その後のバーデン王国
プロイス帝国と三か国同盟軍の戦闘は世界各国の戦いの在り方を根底から変えるものだった。
物量と兵器の質、兵の質、過去に起こった塹壕戦とも違う戦いはより高度な兵器とそれを支える兵站、そして情報収集がすべてを決するといっていいものであった。
航空機、そして戦車をはじめとする陸戦兵器の数々が大地を埋め尽くし、敵兵器を薙ぎ払う。
本戦争において双方ともに ”民間人の犠牲者はいない” と公表しているが実際どうであったかは不明な点が多い。
ただ、前世のような大規模な空爆だとか、無差別爆撃は起こらなかった。
この世界における宗教観と条約による影響だと考えたが、そもそも大型の爆弾を大量に運べる飛行機をどの国も開発できなかったというのが根本にあったように思う。
実際、戦後にようやくバーデン王国にてケイト率いる民間旅客機のプロジェクトチームが作り上げた魔道エンジンを複数取り付けたDC-3のような航空機が初めて民間人を乗せて空を飛んだ。
この世界、魔道と科学の技術が合わさったことで、熱気球から飛行船をすっ飛ばして民間旅客機が生まれることとなった。
また、シュミット社が作る重機はすでに多くが輸出もされ始めている。
復興に伴う土木作業に使われたパワーショベルやブルドーザー、道路を平らに固めるロードローラーなどの重機は現在引っ張りだこな状態だ。
その重機に鉄鋼を納める実家のルイザン社も順調に業績を伸ばしている。
ルイザン社は製鉄から一次加工までを一手に引き受け、その後の二次加工以降の部品製造に特化した製鉄城下町となりつつある。
今ではデュッセル王国のルルー地方に勝るとも劣らないといわれるほどだ。
プロイス帝国は崩壊し、今はマルティン公国となり、現在は兵器開発などができない国となっている。
あの国を調子づかせるとろくなことにならないことは今回の戦争でよく理解された。
非武装中立を宣言させ、過剰な賠償金などは要求しなかった。
それでも賠償金自体は取ったが。
国境は戦争前に戻ったが、一か所だけ旧プロイス帝国の飛び地はポスポリタのものとなった。
そもそもの戦争のきっかけだ。賠償金代わりにポスポリタは領有権を主張し認められた。
私は現在シュミット領にて、シュミット社の技術顧問兼取締役という地位にいる。
代表はフリッツのため、一応その下の役職だ。
次期主力のために複合装甲の研究中である。
戦後にわかったことと言えば、魔法防御を施した100mmの装甲は120mmで簡単に貫通するということだ。
つまり、これ以上 ”装甲厚をあげて防御力を得る” ことはできない。
となれば複合装甲化するしか防御力を上げる方法がない。
だが、私にこのあたりの知識がないため、漠然とした私の認識のもと研究開始という状態だ。
「毎日楽しそうだなキャロル」
「えぇ、とても楽しいわ。新しいものを開発するって最高に楽しいじゃない」
「ははは、やっぱり戦車開発は君の天職だろうな」
フリッツに微笑まれながらも私は今日も戦車の研究をする。
前世の記憶を思い出してから数年、今が最高に楽しい。
以上で完結です。
最後まで読んでいいただき、ありがとうございました。




