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2話 婚約破棄と新しい戦術論

 目が覚めてから現世の記憶を覗いたうえで最良の結婚相手は、フリードリヒ・フォン・シュミット侯爵だった。

 今年で三十五歳、八年前に息子が生まれたが、同時に夫人が儚くなっており、現在フリー。

 何度か再婚の話があったようだが、すべてご破算になっている。

 噂では前妻を愛しているからだと言われているが、軍に悪影響を与えそうな家からの打診だったというのが真実だろう。


 だからこそ、こちらから軍近代化に対する売込みと共に私自身を売り込む。

 黒髪で色白、背は平均的ながら同世代の令嬢達よりスラッとした体形の私は、全体のシルエットが美しいバランスを保っている。何より16歳という若さは武器になる。外見的な満足度は十分だ。

 少々釣り目気味なのが前世の記憶にある悪役令嬢っぽくもあるが、軍人の妻になるならこれぐらい強面のほうがいい。


 あとは、私自身の価値を売り込めるかどうか、そこにかかっている。


 私は父であるユルゲンを前に、この7日間でまとめた内容を説明した。

 実際には5日でまとめ、執事に内容について確認してもらうのに1日かけ一部内容を修正したものだ。

 私の提案をごく簡単に説明すると、騎兵の代わりに装甲を取り付けた車両による強襲によって敵陣を突破し、歩兵と共に包囲して殲滅するというもの。

 そのために必要な車両と編成、装備などをまとめてある。


 この世界には魔法がある。

 近年起こった戦争では、前世のゲームにあるようなマップ兵器と呼ばれるような巨大魔法の打ち合いから始まり、敵兵力を斬撃、相手の数が減ったとされるタイミングで歩兵や騎兵による戦いが起こる。

 魔法の威力は高く、高位貴族になるほど、その効果も大きくなるのが通説だった。

 直撃すればチリすら残らない火魔法など戦争の花だ。


 だが魔法は無敵ではない。


 防御魔法もあるし、前世と同じように塹壕との合わせ技によって防ぐことが可能となった。

 調べてみた限りだが、近隣で起こった戦争では、魔法攻撃によって敵をせん滅した事は少なく、奇襲に成功した時ぐらいだという。


 相手の軍の動きを多少抑え込めた程度の効果しかなく、軍隊そのものの被害は双方ともに軽微であったと観戦武官は報告している。

 火魔法が爆発ではなく、ナパーム的に燃やし尽くして周辺の酸素を減らすようなものであれば塹壕内の軍団であっても崩壊させられそうだが、魔法はそこまで便利ではない。


 しかし、魔法があることで、この世界はある程度の工業的発展もある。

 ガソリンやディーゼルエンジンの代わりに魔力を使う事で回転運動する魔道エンジンがあることで、私の空想の産物は形にできる見込みがあった。


 問題は馬力だが、そこは現行の魔道エンジンでどこまでできるのか、それこそ研究が必要だと思っている。

 何より、高炉も転炉もあり、土魔法による鍛造プレス、鋳造技術、火魔法の応用によるガス溶接・切断に近いものなど近代工業の基礎技術があるのだ。

 実際、魔法を応用した銃や大砲も作られているこの世界において、戦車は開発可能と私は考えた。


「つまり、鉄の鎧をまとった自走する馬車のような乗り物が、騎兵のように敵戦線を突破するという戦術か」

 概要を説明したことで父はある程度の理解を示した。

「そのための兵器群の開発について私が主導的立場に立つためにシュミット侯爵を利用したいというのが一つ、これによって大量に必要になる鉄鋼の製造元である我が家が儲かります。さらにシュミット侯爵自体も軍の近代化推進に功績をもたらしたという形で侯爵家の利益になる。というのが私の考えです」

「悪くはないと思うが、実現が難しいというのは理解しているか?」

「すぐに開発できるとは思っていません。ですが他国がこの方法を思いついた場合、大陸中央に位置し、平野が多い我が国はひとたまりもないでしょう。この戦術に対する防衛方法を研究する必要も出てきます。そちらがこれです」


 私が手渡したのは機動防御に関する構想。

 騎兵の代わりになる戦車を敵方が使ってきた場合、敵戦車は迅速に展開し防衛側の弱いところを突破、後ろに回り込む動きや、そのまま突破し目標地点まで突貫することが考えられる。

 つまり、突破しようとする敵車両を的確につぶす必要があり、同じく戦車を使った敵の作戦行動の阻止、それが大雑把にいえば機動防御という考え方だ。

 そのためにも快速で且つ、敵戦車を確実に仕留められる戦車が必要になる。


「キャロルがまとめた資料を侯爵にお渡ししてみる。会って話がしたいと添えてな。チャンスがあれば会ってもらえるだろう」

「よろしくお願いいたします。ところで、婚約破棄はどうなりましたか?」

「今、白紙撤回で動いている。向こうは破棄という傷は負いたくないとな」

「身勝手な話ですわ。私を飾りの妻にしようとした男に容赦する必要などありませんわ」

「そういうな、家同士のバランスもある。だが来週末には正式に婚約はなかったことになるだろう」

「わかりました。よろしくお願いします」


 お父様との会話から1週間後、正式にハンスとの婚約が解消され、白紙化された。

 向こうの有責とはいえ”破棄”となると私にもキズが付く可能性を父は気にしており、そこは素直にありがたいと感じた。

 白紙撤回ではあるが、フェルスト伯爵家から少なからず慰謝料が支払われ、すべての関係は清算されたのだった。

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