19話 停戦
戦争が始まって半年、ようやく帝国は降伏した。
最終的に停戦ではなく、帝国の崩壊という停戦となったのは何とも残念に思う。
帝都ベルツェをバーデン、デュッセル両国による完全包囲が完成すると、皇帝を含む上層部の対応の悪さから帝都に残っていた100万の市民が一気に決起し、駐留する帝国軍すら反旗を翻したことで、皇族を含む戦争推進派の貴族がとらえられた。
この決起にたいして、すでに疲弊していた帝国軍は戦闘を停止、新たな代表となった穏健派であったマルティン公爵によって停戦条約がなったわけだ。
「最後まで抗いましたか皇族は」
「あぁ、みっともない最期だったとも聞いている。民衆に取り押さえられ首元に軍刀を突き付けられるまで、私は皇帝だ、無礼だぞ、不敬罪だと叫んでいたそうだ」
ようやく帰ってきたフリッツの膝の上に座らされ私は、その体勢で聞く話でもない内容の会話をしていた。
別の部屋ではアンドレとケイトがよろしくやっている可能性まであるのに、この色気のなさである。
「おつかれさまでしたフリッツ」
「あぁやっとゆっくりできる……が、戦いはこれからなのだろう?」
「えぇ、退役軍人の雇用創出、過剰な生産ラインとなっている軍需品の振り分け、国内だけでもやることは山ですよ」
「06式は全車廃棄だろうな」
「T-12は正式に07式と呼ばれるそうですわね」
「あぁ、最新型だからな」
T-12戦車は07式戦車と改められ国防の要の一つになる予定だ。
06式の一部は装甲兵員輸送車になるかもしれないが、基本的には廃棄が順当だろう。
07式は小型化したIS-3のような戦車に仕上がった。
車内が少々狭いがその分防御力に振っているのと、のちに出てくる大型砲を搭載可能なように拡張性をあげている。
本当であれば120mm砲を搭載したかったが製造が間に合わず、85mmのママとなったのだけがもったいないと思っている。
のちに砲ができれば近代化改修することになるだろう。
「ところでキャロル。もう少し落ち着いたら領地へ帰ろう。いい加減アンドレをカタリーナと二人きりにしてやりたいし、娘のリーザに領地を見せたい」
「そうですわね、でも領地へ行っても私は戦車の開発研究を続けますわよ」
「それは構わない。ただ、私は領地に戻るとなれば退役することになる。あまり直接的に軍にかかわれなくなるがいいのか?」
「えぇ、今は貴族家が各工場などを保有しその政治力でもって兵器の採用がされてきましたが、それは不味いということはもうお分かりでしょ?」
「あぁ、わが軍が正式採用したライフルは評価がさんざんだったからな。のちに出た突撃銃の性能が圧倒的だった。あれは平民の設計だったな」
「えぇ、すでに貴族と平民の差で選ばれることはなくなります。ですから正当な方法で売り込むわけです」
侯爵家主導の戦車工場はそのまま会社化する予定でいる。
メインとするのは重機製造だ。
これから各地の復興作業が必要になるのは目に見えている。土木建築機械に需要が出るはずだ。
すでに履帯などの基礎技術も大馬力魔道エンジンも油圧系統の技術もそろっている。
基本設計はすでに始めており形にするのにそれほど時間はかからないだろう。
戦車のラインを数本つぶし、建機を製造する。
この変更のおかげで雇用している従業員を切らずに済む。
「だから工場を会社化して、正式に軍に売り込むわけか」
「そうですわ。軍が行うコンペティションにも出ることになりますが、まず負けないかと」
「だろうな、戦車に関してはシュミットが一番だ」
「えぇ、間違いなく。ところで旦那様?そろそろ寝ません事?」
「そうだね。そうしよう」
膝の上にいた私は抱き上げられてそのままベッドに寝かされる。
もう今日は寝ましょう。
また明日から忙しいのだから。




