18話 第二次攻勢
「よくこれで音を上げないものね」
私は本日の新聞と、フリッツからの手紙を見ながらため息をつく。
音を上げないでいるのはもちろん帝国である。
第一次攻勢期間中もフル操業で新型戦車T-12を量産し、何とか第二次攻勢までに85両を用意できたのだが、本来の充足率には届かなかった。
結局第二次攻勢は80両のT-12と06式の混成部隊として電撃戦を行っている。
第一次攻勢は約一週間の攻勢となった。
バーデン側からは航空機による制空権確保とともに、敵基地への爆撃に地上目標、車列や鉄道などのインフラへ向けての精密爆撃を行い、可能な限り空爆で敵Mk-Ⅴを抑え込み、戦線を押し上げるふりをして敵側の動きを封じた。
逆側、ポスポリタ側は三号戦車そっくりのリース戦車を総勢300両も用いた電撃戦を実施し、敵戦線を突破、自国に入り込んでいた帝国軍を大規模包囲した。
これで消えた軍団数は10ともいわれているが、その損害を受けてもなお、帝国は戦争継続を決定したのだ。
「母上、なぜこうも帝国は停戦を拒むのでしょう?」
「単純よ、もう後がないのよ。仮に停戦したとして現皇帝はどうなると思う?」
「……普通に考えれば貴族だけでなく民衆からの突き上げも食らい退位でしょうね」
「そうなるわよね。さらには皇帝に賛同した貴族たちもやり玉にあがる」
「つまり、保身ですか」
「そう考えるのが妥当よ。でも時間の問題。敵兵力は一時期80軍団にも上ったけれど、今動けるのは40軍団程度と言われているわ。ここで、バーデン王国軍とデュッセル王国軍で電撃戦を行い、帝都城壁に一撃を与える予定よ」
「それが降伏勧告と」
アンドレの質問に私は答えながら頭の中を整理する。
通常考えれば帝都城壁や城に砲弾が着弾すればさすがに降伏すると思うが、それでもかたくなに降伏しなかった場合はどうなるかだ。
市民に被害を出すのはよくない。
無差別爆撃で更地にするなどもってのほかだ。
現に、そういった大規模に地上爆撃ができる飛行機を王国は保有していない。
これはこの世界の宗教上や戦闘に関する条約による部分が大きい。
民間人を倒すことを明確に禁じており、まだ教会の力も強い各国において、無差別に人を殺傷することは”破門”の可能性をはらむ。
破門されれば真に世界の敵となるわけだ。
なので、市街地戦などというのはもってのほかとなる。
「この度の攻勢で、何とか終戦してほしいものです」
「アンドレには苦労を掛けるわね」
「いえ、ケイトに癒してもらっているので何とか頑張れています」
アンドレは今王都の屋敷の管理を一手に引き受けている状態だ。
私もケイトも様々な用事で屋敷の管理まで手が回らないからだ。
領地はいまだに義父母に任せっきりの状態であり、戦争が終わればさすがにフリッツと私が領地に行く予定である。
早いところ落ち着いて次の戦車を開発できる環境になってもらいたいところだ。
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第二次攻勢は順調に推移している。
一日に進める距離は機械化される前と比べ格段に伸びた。
補給についても進軍し予定した地点で無事に受けられている。
少々不足している物資もあるが、武器弾薬に関しては問題ない。
「食事が暖かいだけでもありがたいな」
「全くですよ隊長。ここ三日はレーションばかりでしたからね」
新型のT-12戦車周りで配布された暖かい具だくさんのスープとパンをほおばる。
第12小隊はT-12が3両で構成され、私が隊長として率いている。
各戦車には1両あたり5名で構成されており、15人で今夕飯を囲んでいる状態だ。
「それにしても、この新型は足回りが段違いにいいですね。06式の連中はメンテナンスで悲鳴を上げてましたよ」
「向こうはあとから追加で装甲を載せている分、足回りに負担があるからな。こっちは初めから正面装甲が100mm級で作られてる。その分足回りも強化されているからメンテが楽でいい。履帯が切れることもないしな」
「まったくです。それでいて85cm砲も改良されているんでしょう? 敵のMk-Ⅴなんていちころですよ」
「魔法貫通榴弾だが、効果は未知数だぞ。垂直に近い角度で当てないと最大効果は得られないと聞いている。それに06式についてるようなエプロンにも弱いそうだ。それなら魔道飛翔型徹甲弾のほうが確実だろう」
「ですが、1両あたり10発もいきわたっていないんですよ?」
「とっておきだからこそ相手を見極めて使う必要がある。各戦車長もそのつもりでいるだろう。カール外すなよ」
「わかりました隊長殿」
座ったままだがカールは敬礼を返してくれる。
彼は目がいい。最高の砲手であるので心配はしていないが、我々も無駄弾を打てるほど補給は完ぺきとは言えないからな。
「今日はこの後しっかり休め、明日の朝は早いぞ」
すでに帝都までは残り10kmに迫っている。
明日には戦闘に入る可能性すらある。
だが、この状態で敵の反撃を受けないほどには相手の数は減っている。
戦争が終わるまで本当にあと少しの辛抱だ。




