17話 第一次攻勢
11月、結局開戦から2か月雪の降る前に一発戦線をと考えたのは両軍ともだった。
「損耗兵器の入れ替え、新兵の訓練、その兵の輸送、作戦のための部隊の配置転換、その間に私たちはさんざん魔石に魔力をためながら、工場ラインの改良と、新型の開発に邁進。休む暇もなかったわ」
「キャロル様はまだいいじゃないですか、代表責任者はフリッツ様でしょう? 私はさらに空軍基地に呼ばれるは改良型の性能緒言を見せられてゲンナリするわでやってられませんよ」
「そのたびにアンドレに癒してもらえたのでしょう」
「まぁそれはそうですが……イケメンショタの膝枕は最高ですわね」
「絶対に外でいわないでよその発言」
ようやく空き時間ができ、ケイトとお茶をしている。
作戦遂行までは私もケイトも引っ張りだこだった。家のことをアンドレに任せきりになってしまったがロベルトもいることから何とか回っている。
シュミット侯爵家もルイザン家も今回の戦争における被害は今のところない。
帝国からの空襲はあったが、防空に上がったF-4によって阻止出来ていた。
一部の部品工場などは疎開も始まっている。
念のための対処だが、この疎開は王国内でも工業化が遅れている地域において支援目的となっている。
この2か月の間で国内部は様々な政策が行われた。
各領地における裁量権について、軍事裁量権が失われ、国が一括管理することとなった。
開戦当初の辺境伯家にあった森の穴については空爆などによる阻止ができたが、辺境伯の権限が大きかったことから ”王国軍” が配備されていなかったことが問題となった。
今までは辺境といえば、王都から馬車で10日以上かかり、すぐには連絡が取れないからこその裁量権であったが、ラジオや無線、電話、さらには自動車と情報伝達速度の向上によって、その権限が返上された。
前世の知識でいえば、各貴族家は自治権をもつ県や市のような立ち位置となった。
さらに、辺境伯軍や各領地の軍を合わせすべてを ”王国軍” とし、シュミット侯爵家の保有する兵士も含め、ほぼすべての兵士は王国軍が一括管理することとなった。
ほぼすべてのというのは各貴族の護衛をする兵士は国軍ではなく各貴族家で管理するものとされたからだ。
王国軍はすでに十万人規模で動員されている。各貴族の跡継ぎ以外の成人貴族男性はほぼすべてが徴兵されている。
今にして思えば、この世界は産業革命からの発展が魔法により著しく早く、科学分野についても魔法学と混ざり、すでに二十世紀前後期に入ろうかという状態だ。
供給できる魔力量に限界があるため、発展してもそれが広がっていくペースは遅いが、それでも社会体制が追い付いていない。
まだ馬車と車が一緒に走るような状況だったからだ。
「領地法に貴族法の改正、軍規の改定、道路交通法の整備、この二か月ずいぶんな法案が改正・成立しましたわね」
ケイトがしみじみと振り返っている。
「バーデンは”王国”ですからね。権威がしっかりしている分、こういった改革は早いのよ」
ある意味独裁のいいところよね。
国民の意思だとか意見を無視して法案を決められるのだから。
そして始まったのが第一次攻勢。 可能な限り配備された06式と、新規と修理が終わったF-4戦闘・攻撃機合計400機によるプロイス帝国西部への攻勢だ。
これは同時にポスポリタ、デュッセル王国からも同時に攻勢が行われる。
相手の戦力回復が完了する前に少なくともポスポリタは領土の回復、我々はそちら側の戦力を増やさないための斬撃に徹する。
可能なら侵攻し、国境沿いを占領し停戦を呼び掛ける。
第一次と名前がついている通り、第二次も用意されている。
それは第一次作戦終了後に100両が完成する予定である新型戦車T-12を前線に展開し、敵Mk-Ⅴを物理的に抑え込み06式にて電撃戦を慣行、帝国首都ベルツェを目指すものだ。
また、キャロルに小言を言われるな。
書面を用意すれば戦車が用意できるわけじゃないと。
百も承知だが、あまりこの戦争を長引かせるのはよくないと考えている。
もともとバーデンもデュッセルもそれほど大きな国ではないのだ。帝国との戦闘でこちらが疲弊すれば、他国に食われる可能性すらある。
なるべく早期に叩きのめす力があることを周辺各国に示せた方がいいのだ。
果たしてうまくいくか……それは作戦本部側の立てたこの作戦の成功にかかっている。




