14話 開戦前夜
プロイス帝国からの最後通告が来たという情報がバーデン王国に入ってきました。
現在王家よりプロイス帝国の大使館に確認中とのことで、フリッツが先ほど軍令部へ出かけました。
「まさか母上とケイト嬢の話通りになるとは」
「もし心配なのなら、ケイト嬢を迎えに行ってもいいのよ?」
「いいえ、これでも私は次期当主です。屋敷にて父上の代行を行います」
きりっとした顔で私に言葉を返すアンドレが頼もしい。
今日は8月30日、通達の回答期限はきっと31日でしょう。
くしくも前世の記憶にある第二次世界大戦と同じ流れ。
ただし違う事はいくつもある。
各国の領土は小さく、細分化され、バーデン・デュッセル・ポスポリタによる秘密の軍事同盟が先ごろ締結されたばかり。
プロイス帝国がどこを先に攻撃したとしても少なくとも三方位から袋叩きに出来る見込みだ。
ただ、各国の兵器の質という点で見ると、ポスポリタは少し落ち目のようです。
同盟締結に際し、公開できる範囲での自国兵器の情報交換を行った結果、ポスポリタの保有する戦力のうち戦車の三面図を見る限り前世の三号戦車のような見た目と性能だった。
あとは、いまだに騎兵がいる。全体の兵員数は十分だろうと思われる数がいたが。
そしてデュッセル王国は我がバーデン王国との貿易の結果、ほぼ同等の兵器を保有していることがわかった。前世の記憶でいえばT-44が配備されているいるといったところ。
06式と同程度の戦車を保有していると考えたほうがいいだろう。
そして、三か国による偵察の結果、さすが帝国と言いますか戦車の保有数だけでみれば参加国を合計したより多い台数がいることが判明した。
ただし、質という面で行くと一歩劣る可能性が高い。
こちらが航空優勢を取れれば間違いなく撃破できるだろう。
「最後通告の内容がわかった。我々は三か国の軍事同盟について公開する。それと各基地は臨戦態勢だ。すでに航空機部隊が空に挙がって領空内の警邏を始めた」
「06式がどこまで戦えるか、ですわね」
司令部より一時帰宅したフリッツが私に状況を話してくれた。
これで相手側が攻撃をやめるなら戦争を回避できるが、たぶん血が流れることは決定事項だろう。
「航空隊から、国境に向けてプロイス帝国軍の移動を確認できている。すでにこちらは迎撃態勢を整えている状態だから、王都まで戦火が及ぶことはないだろう」
「機動防御、その真価が発揮されることを祈りますわ」
相手が矛を収めるか、そのまま突き進むのか今夜が山場だろう。
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バーデン王国とプロイス帝国の国境付近にある基地は大慌てであった。
夜間であり、空襲を警戒して明りを極力点けない状態で、陸軍機動部隊の戦車隊員たちは出撃の準備を進めていた。
魔力を持っているものは魔道エンジンに魔力を注ぎ、それ以外の者は砲弾の搭載、履帯のチェック、予備武装や食糧などの補給物資の準備を進めている。
「まさか本当に戦争になるとは……」
基地の機甲師団の司令官であるギュンター・フォン・ローデは冷静さの中に何とも言えない感情を漂わせていた。
補給の充足率などは現状足りているが、戦いが始まればどうなるかわからない。
何より戦車は大食らいだ。
一両当たりの弾薬搭載量は主砲で50発、同軸機銃は1,000発搭載できる。さらには投入するべき魔力量は400にも達し、装着されている人口魔石には一般成人男性で魔力を持つ者4人でチャージして満タンになる量がある。
それをわずか1回の戦闘訓練で使い切るのだ。
魔力に関しては人と共に、魔石によるチャージ方式もあり改善傾向だが、今度はその魔石と共に弾薬や食料品、その他生活に最低限必要な物資を輸送する必要がある。
国内鉄道網が整備され、基地近くの物資集積場までは来るとは言え、そこからはトラックによる輸送が必要だ。
さらには作戦行動によっては前線への補給用のトラックも必要になる。
トラックの魔道エンジンの消費量は戦車と比べれば少なくはあるが、魔石はいくらあっても足らないだろう。
「近々出されるという総動員令では貴族は総出で人工魔石づくりだろうな」
戦争に直接従事しない貴族女性たちは体調不良や魔力欠乏症でもない限りは工場に出向き人工魔石を造り魔力を込めることになるだろうと予測されている。
まだ宣戦布告されたわけでも、総動員令が発動されたわけでもない。
だが、自国を守るための準備は着々と進んでいる。
「司令、戦車隊の準備が整いました」
「わかった、各小隊毎に作戦を開始してくれ」
ドアのない部屋の前で伝令の兵士に声をかけられ、指示を伝える。
何もなければいいが、何かあれば殺し合いの始まりになる。
何としても野蛮な帝国に国土を踏み荒らさせはしない。




