11話 正式量産戦車06式戦車
バーデン王国歴506年、私が結婚してから3年がたとうという日、戦車開発チームが作っていた戦車がようやく正式採用され、王城敷地内にある訓練場において観閲式が行われた。
バーデン国王陛下をはじめとした王族に対して、近代化されつつあるバーデン王国軍の装備を見てもらおうという式典だ。
この年正式採用された06式戦車はT-55に近い形に収まった。
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06式戦車
砲塔正面 90mm
車体 正面 50mm
側面 45mm
背面 30mm
主砲 55口径 85mmライフル砲
機銃 7.62mm同軸機銃
最高速度 50km/h
乗員4名 戦車長、砲手、操縦手、装填・魔道エンジン制御・通信手
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形状はほとんどT-55と言って差し支えなく、多少車体全高が高いかな? といった雰囲気に仕上がった。
お椀型の砲塔はより大型化し、戦車長、砲手、装填手が乗り込める形となった。
この大型砲塔のターレットリングの生産準備は本当に骨が折れた。
広い面積の平面度を出す機械加工というのは専用の工作機を作るところから始める必要があったのだ。
さらに、魔道エンジンの性能向上に伴い、中型魔道エンジンを2機搭載。
おかげで魔力消費量は想像を絶する消費量となり、人だけで供給できるものではなくなった。
そこで登場したのが、人口魔石だ。
これは、T-1A2戦車によるシュヴァルツヴァルト遠征によって魔物の脅威が減少した結果、森での魔道研究が進み、魔物発生の原因となるものが見つかった。
それは魔石であったのだ。
魔石は魔物を倒すと落とすことがあり、昔から原因だろうとは言われていたが、どのように生成されるのかがわからなかった。
今回分かったことは、魔力が高温高圧で圧縮することにより魔石化すること。
本来目に見えない魔力が形になり固形物となるのだ。
この発見によって、高魔力を持つ貴族の跡取りではない物たちの進む道が一つ増えた。
つまりは人口魔石の製造だ。
仕事はかなり過酷だが学力は必要ない。毎日魔力を使い果たすだけでいいので、勉強嫌いな貴族令息令嬢は今後、人口魔石工場に叩き込まれることになるだろう。嫌なら勉強することだ。
また05式装甲兵員先頭車も観閲式に参加している。
これは06式戦車の足回りを活用したもので6名1分隊が搭乗可能な車両として完成した。
T-1で使われた12.7mm砲塔を搭載し、全高は戦車よりも少し高くしてある。
装甲兵員輸送車のほうが先にできたのは、砲の開発に手間取った為。
内陸国家で海軍がない我が国は大砲の製造技術に遅れがあった。
同盟国のデュッセル王国からの技術供与もあり、ようやく形になった戦車砲は、高射砲としても生産され、部品共有化率は80%ほどある。
高射砲としての性能も今のところ十分で、時限魔道信管のおかげで設定高度で炸裂する。
少なくとも自国の飛行機は叩き落せる性能だ。
「こうしてみると壮観ですね」
私は軍関係者として、フリッツの妻としてこの観閲式に参加している。
最上段には国王陛下もおられ、この行進をご覧になっている状態だ。
私は戦車の開発に特化していたが、今回の更新を見る限りバーデン王国の兵士の装備は前世の戦間期の軍隊の装備と言えるだろう。
歩兵はモシン・ナガンのようなライフルとサイドアームとしてM1911のようなものを装備、軍服もカーキ色でまとめられ、戦車も深緑が標準色で、車両によっては三色迷彩が施されている。
そのほか85mm高射砲にはタイヤがついており、装甲兵員輸送車にけん引される形で移動してるし、輸送用のトラックなども見える。
この辺りの開発には手をだせていないので、きっと先見の明がある人達が作ったのだろう。
「トラックや、砲火の移動は全部キャロルの案をもとにしている」
「……顔に出ていましたか?」
「なんであんな立派なものがあるんだろうという顔をしていたぞ」
「あらやだ」
私の表情からフリッツは何を考えていたかわかったようだ。
「私の名前でドクトリンになっているが、君が添えてくれたイラストが役に立っている。乗り物などに関してだが……そろそろ飛行機が来るぞ」
フリッツの言葉に空を見上げればゴマ粒のような点が三機飛んでくるのが見えた。
エンジンの唸りよりかは、プロペラの風切り音をさせて金属光沢のある機体が飛んでいく。
なんだかP-47みたいな形だなと思ったが、だいぶ小さい気がする。
あれが、F-3戦闘攻撃機と呼ばれる飛行機か……7.62mm機銃を2門搭載し、150kg爆弾を2つ積めるという。
すでに急降下爆撃という戦法も生み出し、廃棄予定のT-1A1に対する爆撃で戦車を撃破している。
動いている戦車にどこまで当てられるのかわからないが、それでも数がそろえば十分な攻撃力だろう。
航空機の登場によって、シュミットドクトリンは少し修正されている。
機動防御の考え方の中に航空機による敵機械化部隊への打撃が加わっていた。
これに関しては私は何もしてないので、本当に軍の方たちが考えたのだろう。
もしかすると私以外にも前世の記憶を持つものが飛行機の開発に邁進しているのかもしれない。
出来れば一度会ってみたいものだ。




