10話 出産と周辺国の実情
十月十日、私は産婆やメイドたちに見守られながら初めての出産を迎えた。
前世の記憶にあったラマーズ法と呼ばれる呼吸を試す私を周りは何をしているんだろうと見守っていたが、この呼吸法のおかげか産婆に聞いたところ、かなり安産であったらしい。
「かわいい女の子ですよ」
産婆によってきれいにされた赤子はまだしわくちゃで元気な鳴き声を上げていた。
ちょっと可愛さがわからなかったが、それでも元気に生まれてきてくれたとほっとした。
フリッツも後から様子を見に来てくれ、頑張ったなとねぎらってくれた。
私は女の子が生まれて少しほっとしていた。
前妻の息子であるアンドレと家督争いになると面倒だ。
アンドレの母親は侯爵令嬢であったので、後ろ盾から考えてもアンドレのほうが上だが、生存している後妻の息子と前妻の息子、どちらが家で肩身の狭い思いをするかは明らかだろう。
娘の名前はエリザベートと決まった。
数日でぷくぷくになっていく娘リーサはとてもかわいらしく、私とフリッツのいいとこどりしたような凛々しい女の子になりそうだと思った。
出産からひと月ほど乳母たちと子育てをしながらも、次なる戦車の試作型の詳細設計中だ。
戦車開発チームと呼ばれるようになった私達は、新型戦車の開発を加速させていた。
これは、近隣諸国の影響もあった。
同盟国デュッセル王国へのT-1A1輸出は、対価として金銭だけでなく技術提供も受けることになり、国の技術力向上にも役立てられた。
その中で入ってきた情報として、騎兵国家ポスポリタでも軍近代化の為の戦車開発というのが行われていることが分かった。
かの国は我が国同様平野部が多く、戦車の運用は有利だろう。
なにより、もともと騎兵力が強い国家であり、その相性は悪くないはずだ。
「ポスポリタは秘密裏に開発を行っているとのことですが、演習場で普通に動かしているせいで露呈したというわけですか」
「情報から潜り込ませてスパイの話だと、最高速度は30km/hほどだろうとのことだ。それにT-1よりも大きな砲塔と砲身が短い大きめな口径の砲を積んでいるらしい。おそらく20~30mmだろうとの話がある」
夕食の後のまったりとした雰囲気の中でする会話でもないが、私はフリッツからデュッセルからもたらされた情報を聞いていた。
場合によっては、現在開発中のT-10の性能を引き上げる必要がある。
「新型は正面、側面装甲を傾斜ありで45mm、背面も20mm、砲塔正面は60mmとしていますが、もう少し盛ってもよさそうですね」
「そんなに重たくして大丈夫なのかい?」
「エンジンの改良も進んでいますし、エンジン直結方式とできるので馬力は十分あります。最高速度で何とか45km/h以上を狙いたいところです。ところでフリッツ」
「どうした?」
「搭載砲の改良は進んでいますか?」
「進んでいる。別方向からの要請もあるからな」
別方向からの要請、それは対空砲のことです。
昨年、海を越えた先の大陸にて飛行機と呼ばれる魔道エンジンを使った空飛ぶ機械が生み出されました。
私の知識からもそれっぽいもの作れたかもしれないが、私は空より陸に興味があった為、そのあたり放置していた。
それに熱気球というもは演習でも使われ始め、それをどう落とすのかという課題も出ていたため、開発が進んでいた。
対空砲、又は高射砲と呼ばれる砲は、高初速による直進性があるため戦車砲に応用できる。
現在私の助言もあり、50mm高射砲と85mm高射砲が開発中だ。
そして私の知識をフリッツへ提供しバーデン王国でも航空機の研究が開始された。
残念ながら航空力学についての知識に疎い私は、概略図と知っている基礎知識、それっぽい形の絵を提供したに過ぎないが、私が提案するより前に試験飛行に成功していると聞く。
何もないところから作るよりは、何か元があったほうが作りやすいという事だろとおもったのだが、私よりも知識を持つ者がいたらしい。
海を越えた先の大陸での初飛行の発表からわずか2カ月でバーデン王国も飛行機を飛ばした。
もともと戦車開発の為に魔道エンジンのパワーアップを進めていたこともあり、当初よりある程度装甲を施した単葉機が完成した。
制御方式にはまだ改良の余地ありとのことだが、十分な馬力がありプロペラの設計や翼形状の最適化をすすめることで、そのまま軍用化できると考えている。
問題となったのは、その飛行機をどう抑え込むか。
飛行機で抑え込むのはもちろんだが、一時的にでも地上部隊が耐え忍ぶために高射砲の必要性が生じたわけだ。
そこで、高射砲をそのまま戦車砲にも活用したいとこちらも申し出た
金しか出していないが、兵器の共通化にもなり補給の面倒さも減るはずだ。
共通化できるものは共通化したほうが良い。
なにより自国で資源が出るとはいえ無限ではない。
より安く、より安定した性能で、いつでも使える兵器。それが大切なのだ。
この高射砲が完成してくれれば、一気にT-34-85レベルの性能の戦車を世に出せる可能性が高くとても楽しみにしている。




