詐欺実行章:草を信じて、金を出せ
【場所:都内・高級貸し会議室/“限定投資家説明会”】
午後2時。
壁に観葉植物が並び、ペットボトルの水までブランド品が並ぶ小さな会議室に、
スーツ姿の男たちと、一見して資産を持っていそうな婦人たちが集まっていた。
集められたのは、“次世代農業の夢を信じたい”富裕層たち。
その中央、壇上に立つのは――
もちろん、三宅行成。
スーツは高級に見えるが仕立ては偽物。ネクタイの柄だけが妙に派手だった。
「皆さま、本日はお忙しい中、未来の“緑”にご関心をお寄せいただき、誠にありがとうございます。
ご安心ください。皆さまの投資は、草のごとく伸び続けます」
(軽く笑いが起こる)
三宅は、映像を映し出す。
緑の牧草が機械の中で育ち、ロボットアームが自動収穫しているCG映像。
続けて数字が並ぶ。
・国内チモシー市場:約600億円
・輸入依存率:72%
・装置導入後の自給率目標:60%
・“1台で年間収益:約1,200万円” ←※完全な嘘
「これが、“グリーンエイド・ホーム”のポテンシャルです。
チモシー、クレソン、ミント……草という草が、“金”になります」
そして、三宅は「核心」に切り込む。
「ただいま、装置の先行開発支援パートナーを、限定で募集しております。
1口500万円。30口限定。現在、残り7口のみ。」
(投資家の表情が変わる)
「先に言っておきます。
金を出す人が夢を見るんじゃない。夢を見る人だけが、金を出せるんです。
あなたが最初の30人に入らなければ、次に回ってくるのは“ユーザー”の席。
でも今日ここにいる皆さんは、“供給側”になれる。農業革命の支配者です」
後方で、陽太が不安そうに視線を泳がせていた。
しかし三宅は、笑いながら、トドメを刺した。
「ご安心ください。契約後はすぐに出資証明書と“草券”をお渡しします。
これは、我々が開発予定の“グリーンエイド草通貨”のテスト用権利証です。
要するに――草を育てる者が、未来の通貨を握る。
冗談ではありません。“草が通貨になる日”は、すぐそこまで来ています」
投資家の一人が、手を挙げる。
「……これは、現物の装置はいつ届くんですか?」
三宅は微笑みを崩さない。
「現在、アメリカのネブラスカ州で最終調整中です。
すでに日本仕様に最適化したプロトタイプが完成しており、今月中には一部上陸予定。
もちろん、初期出資者の方には、最優先で割り当てさせていただきます。」
(本当は、装置などどこにも存在しない)
三宅は、カバンから数枚のファイルを取り出し、手渡していく。
「こちらがご契約書。
初期出資金500万円に対し、リターン想定年利は15〜20%。
もし国のモデル事業に採択されれば、補助金分で実質出資ゼロ、年間利益だけ残ります。
おつりが出る未来――用意しました」
ざわめきの中、金の匂いが満ちていた。
1人、また1人と、ペンを取る。
「“未来に乗り遅れたくない”」
その欲望が、会場の空気を塗りつぶしていく。
陽太は、その様子を見ながら心の中で呟いた。
(――こうして、人は“草”に金を注ぐ。
でも、それが“嘘の草”だと知ったとき、誰が責任を取るんだ……)
その日だけで、三宅行成は7口、合計3,500万円を手にした。
そして、笑顔のまま、こう言った。
「草の時代が来ました――あなたの資産に、風が吹きます。」