回想章:はじまりの嘘 〜三宅行成、最初の収穫〜
【時代:30年前/バブル崩壊直後】
【場所:東京都内・オフィスビルの貸し会議室】
若き日の三宅行成(38歳)は、当時すでに“やり手の営業マン”として名を馳せていた。
彼の武器は、派手なネクタイと大声のプレゼン、そして何よりも「誰もが信じたい話」を語る能力だった。
その日も、貸し会議室にはスーツ姿の中高年が20人以上集まっていた。
「皆さん、今こそ“太陽”を取り戻す時です!」
三宅は満面の笑みでそう言い、ホワイトボードに大きく書いた。
【ソーラー21計画】
「このパネルは、1枚で年間60万円の電力を生み出します。
初期費用はかかりますが、3年後には元が取れる。以降は利益しかない。」
――“夢の太陽光バブル”は、その頃すでに陰りを見せていた。
けれど、三宅のプレゼンは違った。
彼は、数字をごまかさなかった。“出典を捏造した”のだ。
「これは、通産省の推奨プログラムにも連動してます。補助金も適用されます。
しかも皆さん、“発電権利証”がつくので、売電収入を子や孫に引き継げるんです!”」
(※どれも嘘だった。補助金制度は既に終了。パネルは輸入粗悪品。売電契約も未締結)
プレゼン終了後、参加者のひとり、老夫婦が泣きそうな顔で近づいた。
「……もし、これで息子の医療費がまかなえるなら……本当に、救われます」
三宅は、笑顔で頭を下げた。
「大丈夫ですよ。太陽は、必ず昇りますから」
【半年後/事件が発覚】
「――おい、三宅ってやつ、逃げたって話だぞ!」
「俺たちの金、どこいったんだよ……!」
全国紙には小さく、“太陽光投資詐欺事件”の報道が載った。
被害総額約1億8千万円。被害者数80名。
しかし、中心人物の三宅行成は“書類上”には存在していなかった。
事業主は彼の名義ではなく、別の若手社員の名で登記されていた。
逃亡中、ある廃ビルの一室。
新聞記事を読んでいた三宅は、静かに笑った。
「……嘘なんて、バレなきゃ“未来”だ。
信じた奴が泣く? 違う。“夢を見た対価”を払っただけだ」
そう言って、安物のウイスキーを口に運ぶ。
テレビでは連日、企業倒産とリストラのニュース。
「――世の中全部、嘘みたいなもんだろうが。
だったら、俺の嘘ぐらい、ちょっとマシな希望ついてんだよ」
その日から、三宅行成は表舞台から姿を消す。
だが、彼の“夢売り”は続いていった。
不動産、健康器具、ペーパーカンパニー、偽コンサル……
常に名前と組織を変え、
誰もが信じたくなる“少しだけ未来のある嘘”を届け続けた。
そして、68歳のいま――
「草で国を変える」などという話を、
自分が信じ始めていることにすら、気づかないふりをしていた。