スピンオフ章(続き):陽太との接触
【場所:市内の公共ホール・プロジェクト説明会の会場裏】
グリーンエイド・ホーム第2回説明会。
会場内では三宅行成がまたしても、笑顔と大声で夢を語っていた。
「本日ご来場の皆さまには、草が生える前に、夢が生えます! なんてな、ハハハ!」
拍手。笑い。
そのすべてから少し離れた控室の隅で、佐倉美咲は静かにひとりの男に声をかけた。
「……山崎陽太さん、ですよね?」
陽太は振り返る。驚いたように、だがすぐに苦笑を浮かべた。
「あー……はい。僕、なんかやらかしました?」
「いいえ。ただ、少しだけお話を伺いたくて」
美咲の声は低く、優しい。しかし、目は笑っていなかった。
「グリーンエイドの件、調べてらっしゃるそうですね?」
陽太は一瞬だけ目をそらした。
その仕草が、美咲に“確信”を与えた。
「……内部のことを知ってる方から、直接話が聞ければと思って。
いえ、疑ってるとかではなくて。
ただ、どうしても計算が合わないことが多くて」
陽太は沈黙した。
その静けさが、返答以上の答えになっていた。
「チモシー。あれ、本当に1日10トン育ちますか?」
「……育ったら、すごいですよね」
「そうですね。……でも、資料を読む限り“育たない”ようにしか思えません」
陽太は、苦笑した。
それは、何もかも見透かされた者が見せる、情けない笑いだった。
「……三宅さんは、嘘が得意です。
でも、誰かが“信じたい嘘”しかつかないんですよ。
今回も、みんな“信じる準備”ができてる。
補助金の話も、“もらえる前提”で動いてる。
装置がないことなんて……たぶん、みんな、なんとなくわかってるんです」
「でも、それでも進めるんですか?」
「……はい」
「どうして?」
陽太はしばらく黙っていた。
そして、ごく小さな声で答えた。
「たぶん俺、もう後戻りできないとこまで来ちゃってるんですよ」
美咲はその目を見つめた。
そこにいたのは、詐欺師ではなかった。
嘘に呑まれそうになっている、本当のことを言いたい誰かだった。
「陽太さん、これ以上進んだら……きっと、本当に取り返しがつかなくなります。
止められるのは、“中にいる人”だけなんです。
私は、あなたが“加害者”じゃないって思いたい」
陽太は何も言わなかった。
ただ、俯いたその拳が、わずかに震えていた。