表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/18

スピンオフ章(続き):陽太との接触

【場所:市内の公共ホール・プロジェクト説明会の会場裏】


グリーンエイド・ホーム第2回説明会。


会場内では三宅行成がまたしても、笑顔と大声で夢を語っていた。


「本日ご来場の皆さまには、草が生える前に、夢が生えます! なんてな、ハハハ!」


拍手。笑い。

そのすべてから少し離れた控室の隅で、佐倉美咲は静かにひとりの男に声をかけた。


「……山崎陽太さん、ですよね?」


陽太は振り返る。驚いたように、だがすぐに苦笑を浮かべた。


「あー……はい。僕、なんかやらかしました?」


「いいえ。ただ、少しだけお話を伺いたくて」


美咲の声は低く、優しい。しかし、目は笑っていなかった。


「グリーンエイドの件、調べてらっしゃるそうですね?」


陽太は一瞬だけ目をそらした。

その仕草が、美咲に“確信”を与えた。


「……内部のことを知ってる方から、直接話が聞ければと思って。

いえ、疑ってるとかではなくて。

ただ、どうしても計算が合わないことが多くて」


陽太は沈黙した。


その静けさが、返答以上の答えになっていた。


「チモシー。あれ、本当に1日10トン育ちますか?」


「……育ったら、すごいですよね」


「そうですね。……でも、資料を読む限り“育たない”ようにしか思えません」


陽太は、苦笑した。

それは、何もかも見透かされた者が見せる、情けない笑いだった。


「……三宅さんは、嘘が得意です。

でも、誰かが“信じたい嘘”しかつかないんですよ。

今回も、みんな“信じる準備”ができてる。

補助金の話も、“もらえる前提”で動いてる。

装置がないことなんて……たぶん、みんな、なんとなくわかってるんです」


「でも、それでも進めるんですか?」


「……はい」


「どうして?」


陽太はしばらく黙っていた。

そして、ごく小さな声で答えた。


「たぶん俺、もう後戻りできないとこまで来ちゃってるんですよ」


美咲はその目を見つめた。

そこにいたのは、詐欺師ではなかった。

嘘に呑まれそうになっている、本当のことを言いたい誰かだった。


「陽太さん、これ以上進んだら……きっと、本当に取り返しがつかなくなります。

止められるのは、“中にいる人”だけなんです。

私は、あなたが“加害者”じゃないって思いたい」


陽太は何も言わなかった。

ただ、俯いたその拳が、わずかに震えていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ