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エピローグ2:再会 〜収穫の向こう側で〜

【場所:地方刑務所・面会室】


分厚いガラス越しに、年老いた男が座っていた。

前より少し痩せた。髪も完全に薄くなった。

それでも、目だけは生きていた――三宅行成、現在71歳。

面会室のドアが開く。

翔太が入ってくる。背は伸び、声は低くなったが、目は昔と変わらず真っ直ぐだった。

ガラス越しに目が合った瞬間、三宅はニヤリと笑った。

「おお、草ボウボウの坊やが来たか。

……もう、名前変えたりしてないよ。三宅で、通してる」

翔太も、小さく笑った。

「久しぶりです。

……今日は、“報告”に来ました」



【面会室・会話】


「報告……ってのは、“草がちゃんと生えました”ってやつか?」

「ええ、チモシーです。

今はもう、装置の販売も始めてます。町の酪農家に、少しずつですけど。

農協にも話が通って、助成金も、今回は本物の制度で出ました」

三宅は感嘆のような溜息をついた。

「……おいおい、夢じゃなくて、ほんとに生やしちまったのかよ」

「“本物の夢”って、時間と現実の中でしか育たないんですよ。

誰かに信じさせるより、自分で信じてる方が、ずっと難しいけど」

三宅はしばらく黙っていた。

ガラス越しの視線が、まるで懺悔でも嘲笑でもなく、ひたすら静かだった。

「……お前が、俺の草を引き取ったってことになるな」

「いいえ。僕はあなたの草を、一回“枯らした”と思ってます。

でもそのあと、同じ種を自分で蒔きなおした。

違う土で、違う水で、ちゃんと根を張らせたんです」

三宅は小さく笑い、手元のコップの水を見つめる。

「……育ててくれて、ありがとうな」

翔太の瞳が、わずかに揺れた。

「感謝されるために来たわけじゃありません。

僕は……あの時、おばあちゃんが“後悔してない”って言った気持ちの意味を、確かめたかったんです」

三宅は、しばらく沈黙したあと、まっすぐに翔太を見た。

「……夢はな、あんまり近づきすぎると、崩れる。

でも、遠くにあるうちは、ずっと照らしてくれる。

俺は、照らし続ける側になりたかっただけなんだよ。

たとえ、自分ではそこに行けなくてもな」

翔太は、少しだけ目を伏せ、それから立ち上がった。

「――僕は、夢に触れられる側で、ちゃんと立っていたいと思ってます」

そしてガラス越しに、一礼した。

「もうすぐ、僕の装置の“正式第一号機”が、全国の高校に設置されます。

“GreenAid Home mini”って名前で。

あなたのじゃなくて、僕の“ホーム”です」

三宅は、ゆっくりと頷いた。

「……草が、家の中で育つ日が来るなんてな。

やっぱり夢って、誰かが嘘ついた先で、本当になるのかもしれねぇな。」

翔太は去る。

背後で、三宅は誰にも見えないように、静かに目を閉じた。


その後――

翔太の装置は、教育機関や小規模農家に広まり、

“誰もが草を育てられる未来”は、ゆっくりと静かに、現実になっていった。

ある地方の高校で、卒業文集にこう書いた生徒がいた。

「夢は、誰かがついた“嘘”の跡地に、本当に咲くこともある。」


本当に、最後の収穫が訪れた――今度こそ、“本物の草”として。



もしもこの物語を、

「詐欺に騙された人々の話」だと思って読み終えたなら――

もう一度、ページの隙間に残された“芽”を見つけてみてください。


この小説の中には、確かに嘘がありました。

存在しない機械。届かない装置。虚構のプレゼン。

人の欲望や、信じたくなる弱さを利用する三宅行成の言葉は、巧みで残酷でした。


けれど同時に――

その嘘に触れ、傷ついた人たちの中に、“信じ続けた想い”が残っていたことも事実です。


「信じた自分を否定したくない」

「信じたことに意味があったと思いたい」


それは単なる逃避ではなく、

“育てなおす覚悟”を持った人間の、再出発の合図なのだと思います。


翔太は、祖母の遺言に背中を押されて、

本当に草が育つ装置を作り上げました。

それは、世界を変えるような偉業ではないかもしれない。

でも、誰かが失敗し、誰かが泣き、その上でなお、“もう一度信じてみた”草の芽でした。


誰もが、“信じたい”と願った夢。

誰かが、“売り物”にしてしまった夢。

そして最後に、それを“本物”に育てなおした夢。


嘘から始まったこの物語が、

読み終えた今、少しでもあなたにとって

「希望とは何か」を考える種になっていたのなら――

それこそが、この物語の最後の収穫です。


どうか、この本を閉じたあとも、

あなたの中で、小さな何かが芽吹いていますように。


ありがとうございました。

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