最終章:最後の収穫
【場所:東南アジア・海沿いの小さな町】
その日は、雲ひとつない快晴だった。
三宅行成――今は“草間 陸”と名乗る男は、海辺のカフェでいつものようにノートPCを開いていた。
画面には、新しく立ち上げた仮想通貨“GreenBit”のクラウドセールサイトが表示されていた。
【参加者数:412名】
【合計調達額:47,800,000円】
彼はふっと鼻で笑った。
「まったく、時代は“草”に優しいな。
土も水もないのに、金だけはたっぷり生える」
店員がコーヒーを運んでくる。
「草間さん、今日も快調ですね」
「うん、まぁね。いつだって未来は、俺の手のひらの上さ」
言いながら、ポケットから小さな封筒を取り出した。
そこには、新たな“嘘の台本”が印刷された企画書――
“GreenBit Academy”構想:草を学び、通貨を育てるオンライン講座。
「教育にしたっていい。“未来を信じたい奴”は、いつの時代もいるからな」
【その夜】
宿に戻った三宅は、送金リストと名義変更資料をチェックしていた。
明日には、資金の大半が“別名義”の財布に移る予定だ。
「これでよし。
あとは……もう一度、日本に戻ってもいいかもな。
名前を変えて、また“復活の草”でも育てようか」
だがその時、スマホが鳴った。
画面には、「非通知」。
少しだけ眉をひそめる。
だが、彼は迷わず出た。
「……もしもし?」
沈黙のあと、声が返ってきた。
「三宅行成さんですね?」
(――この声は、聞き覚えがある)
「ここに、あなたに会いたいという人がいます。
元・被害者の孫です。名前は――佐藤翔太さん」
三宅は、しばらく何も言わなかった。
「……会って、どうするって?」
「彼は、“あなたに夢の続きを話しに来た”と言っています。
逃げる前に、少しだけ時間をくれませんか?」
電話の向こうには、波の音が聞こえた。
きっと、日本のどこかの港だろう。
三宅は、静かに笑った。
「……しょうがねぇな。
じゃあ、俺の最後の嘘を、もう一つプレゼントしてやろうか。」
【数日後:新聞記事の一文】
『グリーンビット詐欺』の主犯と見られる草間陸こと三宅行成(68)は、
現地の空港で拘束され、日本へ送還予定となった。
滞在中、数名の“被害者関係者”と会っていたことが確認されており、
詳細は現在調査中。