崩壊編:緑の夢は、灰になった
【テレビ番組:朝の情報番組・速報】
「“ティモシーが1日10トン”!? 夢の水耕栽培装置に“実態なし”
地方発の“草バブル”、詐欺の可能性浮上」
「本日午前、内部関係者の告発により、“グリーンエイド・ホーム”と呼ばれる装置の製造実体がないことが判明しました。
投資金額は全国で約3億円以上とされ、今後さらなる被害が明らかになる見通しです」
画面には、モックアップの外観写真と、
三宅行成の顔写真(セミナー会場での笑顔)が大きく映し出される。
【SNS:X(旧Twitter)/午前9時台】
@TIMO_TOSHI
「まさか草で年収1200万になるわけねーだろwwww」
「って思ってたけど……信じてた人、マジでいたのかよ……」
@shikinwo_nagareta
「ウチの老母、施設に勧められて契約してたわ……。怒りというか、情けない……」
@nouka_kabedon
「俺は見たぞ。説明会で“NASA技術があるから生える”って言ってた。信じた俺がアホだった。」
@kusa_no_mirai
「ティモシー詐欺事件、完全に“草”生える案件じゃん……(白目)」
【投資者チャットグループ(地獄)】
山口(老人ホーム所長):「利用者に説明できません。どうすればいいんですか」
吉永(酪農家):「装置は? 装置だけでも返してほしい」
佐野(実業家):「返せるわけがない。中身は“空っぽの箱”だったってよ」
中野(元コンサル):「これ、民事で済まないだろ。刑事告訴、集団でやるべきだ」
柿沼(富裕層未亡人):「信じた私が悪いの……? あの人、目が優しかったのに……」
【陽太のアパート/テレビ中継】
「……全国から数十件の被害報告が寄せられており、
被害総額は今後、5億円を超える可能性もあります。
警察は、関係者である三宅行成氏の所在を確認中……」
陽太は、ソファに座り込んだまま、画面を見つめていた。
(……夢は、たしかに売った。
でも、それで救われた人なんて――ひとりもいなかった)
彼のスマホに、非通知の着信が鳴る。
出ると、震えた声の老婦人が言った。
「……装置、本当に届かないんですか?
私、息子が農家で……これで立て直せるって……信じてたのに……」
陽太は何も言えなかった。
その声が、画面のニュースよりも遥かに、胸に刺さった。
【三宅行成の潜伏先・海外送金直後】
テレビを見ながら、静かに紅茶をすすっていた。
ニュースでは、自分の顔と名前が「詐欺師」として流れている。
だが、三宅はそれを、どこか誇らしげに見ていた。
「……まあ、“信じた奴”が悪いってわけじゃないが。
信じるという行為そのものが、もう博打なんだよ」
彼は手元の書類をひとつずつ破っていく。
事業計画書、パンフレット、デザイン図面、全部――見事な偽物だった。
「……だが、それで信じた人間が、夢を見た時間まで偽物ってわけじゃない」
そして、ふと呟いた。
「それが俺の、詐欺師としての“誇り”だ。」
だがその目の奥には、うっすらとした焦りが見え始めていた。
(――さて。どこまで逃げられる?)