第○章:納品を待つ者たち
【場所:都内/投資者向けフォローアップ説明会】
「皆さん、安心してください。グリーンエイド・ホーム第1便は、まもなく日本に到着します。」
三宅行成は、白いシャツにネイビーのスーツをまとい、
“すでに成功した男”の風格で、壇上に立っていた。
会場の下では、前回の投資者たちが並んでいた。
ファイルを手にした不動産会社の社長。
スカーフを巻いた資産家の未亡人。
小規模農場を経営する地方の若者。
「現在、アメリカ・ネブラスカ州の協力工場にて、
日本仕様のユニット調整が最終段階に入っております。
現地の輸送業者と調整の上、来週中には通関に入る予定です。」
(※実際には工場も装置も存在しない)
陽太は会場の隅で黙って立っていた。
自分の作ったモックアップが今、"実在する装置"として期待されている。
目を輝かせる人々を見て、心臓がずしりと重くなる。
(――みんな、あれが届くと思ってる)
会場後、投資者のひとり――未亡人の吉永玲子が近づいてきた。
「三宅先生、ちょっとよろしいかしら?」
「もちろんもちろん、お久しぶりですね、玲子さん。お肌の艶が一段と……」
「ふふ、先生たら。
それより、装置の設置日、そろそろ具体的な日程が知りたいんですけど……」
三宅は、すっとスマホを取り出し、スケジュールアプリの画面を見せた。
「ちょうど来週、水曜から日曜の間で順次発送開始の予定です。
実機は空輸されて、成田に入ってから横浜の倉庫を経由します。
玲子さんのお宅は第2ロットに入ってますから、おそらく3週間以内には現物が……!」
(陽太、背後で震える:成田? 横浜?――全部ウソじゃねえか……)
一方、別の投資者グループLINEでは、こんなやりとりが交わされていた。
「もう装置届いた人いますか?」
「まだうちも。3月末って言ってたけど、音沙汰なし」
「問い合わせたら“今通関中”って言われました」
「ニュースとかで報道されないの不思議ですよね。こんな革命的ならもっと騒がれても…」
少しずつ、しかし確実に、“違和感”が浸透しはじめていた。
【場所:行成の事務所・夜】
「……そろそろ限界かもしれませんね」
中村誠司が、テーブルに資料を広げながら言った。
装置の図面、海外工場のフェイク写真、偽造契約書――
すべてがギリギリの嘘で構成された、紙の塔。
「何がだよ」
三宅はウイスキーを注ぎながら、鼻で笑った。
「“限界”は来ない。来るのは“次の夢”だよ。
こっちが希望を提示し続ける限り、奴らは騙され続ける」
「……その“希望”ってやつ、どこで