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103万円の壁

作者: ろくさん

これはリアルストーリーに近い同時進行ドキュメントである。東京・霞が関。緊迫した会議が行われていた。薄暗い会議室には、国民党の新星議員、藤堂健一郎と財務省のトップ官僚、黒木恒彦が鋭い視線を交わしていた。


プロローグ:「103万円の戦場」


東京・霞が関。初夏の陽光が差し込む政府庁舎の一角で、緊迫した会議が行われていた。薄暗い会議室には、国民党の新星議員、藤堂健一郎と財務省のトップ官僚、黒木恒彦が鋭い視線を交わしていた。


「黒木次官、この103万円の壁を取っ払わなければ、多くのパート労働者が正当な賃金を得られないだけでなく、経済全体の底上げが難しくなる。それが分からないとは思えないんですがね。」藤堂が皮肉を込めて言う。


「藤堂先生、それは理想論だ。年収の壁をなくせば、一部の層に負担が増え、逆に経済に歪みを生む。制度には理由がある。無邪気な改革ごっこは国民の負担増につながるだけだ。」黒木の声は冷徹で、部屋の空気をさらに冷たくした。


しかし、この議論の裏側には、もっと深い思惑が渦巻いていた。


第1章:「秘密の提案」


藤堂が103万円の壁撤廃を公約に掲げたのは、彼自身の信念からではなかった。ある夜、彼の事務所に一人の謎の訪問者が現れた。その男は、巧みに声を落としながらこう囁いた。


「藤堂先生、この壁を壊せば、あなたの支持率は一気に跳ね上がる。財務省の抵抗は予想済みです。こちらで手はずを整えてあります。」


その訪問者は、日本有数の経済団体の裏側で暗躍する人物として知られる影のフィクサー、神崎だった。彼の狙いは、103万円の壁撤廃をきっかけに新たな利権構造を作り出すことにあった。


一方、黒木もまた静かに動いていた。彼の背後には、大企業と結託した財界の重鎮たちがいた。年収の壁を守ることで得られる税制上の恩恵を手放すつもりはない。黒木は財務省の内部資料を改ざんし、改革のコストを大幅に膨らませることで、撤廃を不可能に見せかける準備を進めていた。


第2章:「動き出すチェスゲーム」


改革派の藤堂と保守派の黒木、双方の背後で暗躍する勢力の思惑が複雑に絡み合う中、ある事件が霞が関を揺るがす。


国会の審議中、藤堂の携帯に届いた1枚の写真。そこには、黒木と神崎が密談する様子が映っていた。この写真の真意を探るべく、藤堂は秘書の早川美咲とともに調査を開始する。


黒木もまた、藤堂の動きを察知し、徹底的な妨害工作を仕掛ける。


果たして、103万円の壁を巡る戦いは誰の手に委ねられるのか。そして、その壁の向こうに隠された真の目的とは何なのか。霞が関の権力ゲームは、ますます激化していく。


第3章:「曽根島の一手」


霞が関の最上階にある、誰も存在を公に認めない特別会議室。その部屋に集まったのは、国民党代表の藤堂健一郎、財務省次官の黒木恒彦、そして影のフィクサー、税制調査会のドン・曽根島重成だった。重厚な扉が閉ざされると、曽根島が静かに口を開いた。


「お二方、これ以上の争いは無益だ。103万円の壁撤廃を巡る議論は、もはや国民に見透かされている。結局、どちらが勝とうと、この国の大衆は得をしないことが分かっているんだ。」


黒木が冷笑を浮かべる。「それなら、我々の案を採用すればいい。103万円の壁を維持しつつ、細かな調整を入れるだけで済む。」


「それは君たち財務省の既得権益の温存に過ぎない。」藤堂が怒気を含んだ声で応じる。「国民党としては、根本的な改革を求める声を無視することはできない。」


曽根島はゆっくりと手を挙げ、二人を制した。その目には深い狡猾さが宿っていた。


「お互い、自分の主張を通すために必死だ。だが、その裏で動いている利権を、私が見抜けないと思うかね?」

曽根島はそう言いながら、黒木と藤堂、それぞれの組織が曽根島の紹介で受け取った巨額の献金リストをテーブルに叩きつけた。


第4章:「50万円の提案」


「この問題には中途半端な解決が必要だ。」曽根島はにやりと笑う。「103万円の壁を撤廃するのではなく、50万円の壁を設ける。これなら誰も損をしない。」


「50万円?!」藤堂と黒木が同時に声を上げた。


曽根島は椅子にふんぞり返り、葉巻を取り出した。「50万円の壁にすれば、労働者層の控除対象が広がり、パート労働者を増やしたい経済界も満足する。一方、税収への影響は限定的で、財務省も納得できる範囲だ。」


黒木は険しい表情で言った。「しかし、それでは実質的に103万円問題を先送りにするだけだ。問題解決にはならない。」


藤堂も食い下がる。「国民を欺くような妥協案だ。これでは、私の信念に反する。」


曽根島は冷たい目で二人を睨みつけた。「信念や理念なんてものは、金と力の前では無力だ。君たちも分かっているだろう?この提案を飲まなければ、これまで受け取った『支援』の実態が公になる。そうなれば、君たちの政治生命は終わりだ。」


最終章:「曽根島の勝利」


結局、藤堂も黒木も曽根島の提案に屈した。50万円の壁案は、急遽召集された国会で「国民負担を減らすための英断」として大々的に発表された。メディアもそれを絶賛し、曽根島の名は国民の耳には届かなかった。


一方で、曽根島の銀行口座には、双方の利権から流れ込む莫大な資金が記録されていた。曽根島は深夜、自宅の書斎で一人ほくそ笑む。


「これでいいのさ。国も政治家も、結局は俺の手の上だ。」


霞が関の空には、梅雨前の重たい雲が垂れ込めていた。その雲がこの国の未来を暗示しているかのように、藤堂と黒木はそれぞれ、自分の選択が正しかったのか苦い思いを抱えたまま、表向きの成功を祝う会合に向かった。


エピローグ:「壁の向こう側」


数年後、50万円の壁は徐々に国民に影響を与え始めた。低所得層の働き方が制約され、表向きには成功とされた政策の裏側で、多くの人々が新たな壁に苦しむこととなる。


その一方で、曽根島は悠々自適な隠居生活を送っていた。誰も彼がこの国の税制を動かしていた黒幕だとは気づかない。ただ一部の関係者だけが、彼を「壁の建築家」と呼び、密かに恐れ続けた。


国民の声は、霞が関の空に吸い込まれ、いつしかかき消されていった。


おわり

官僚たちの生態は、こんなものか?

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