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ダンジョン攻略準備



「「ごちそうさまでした」」

オレたちは昼食の片付けを終わらせて、調合に必要なものと手順を改めて確認した後、イアンがオレに他に何か知りたいことはあるかと聞いてきた。

「さて、確認はしたしこれから調合をするんだけど、これ以上何か質問はあるかい?」

「この魔法薬の調合に成功しやすい方法とかはあるか?」

「特にないかな。他の魔法薬と変わらないし、いつもと同じようにしたらいいよ」

「了解。準備をしよう」

採取した鱗粉、花粉と精水を入れた瓶、魔法陣が描かれた羊皮紙を持って庭に行く。今回作る魔法薬は耐性を得るために低、中、高濃度の3段階に分ける必要がある。失敗して無駄に材料を失うと面倒だから、まずは一番低濃度のものでどれほど魔力を消費するか見定める。

(状態異常の耐性を作るための魔法薬なんて初めてだが……イアンも言っていたとおり、普段と同じだ。きっと、うまくいく)

一つ息を吐き目を閉じて、羊皮紙に描かれた魔法陣の上に用意した材料を置き、魔力を通して馴染ませていく。隅々まで行き渡ったことを確認し、魔法を唱えた。

「生活魔法『調合(コンパウンディング)』」

青白く光る粉が精水と共に空中を舞って溶けていき、魔力を介することで過不足なく混ざり、瓶に収められた。

「……成功したのか?」

「試してみようよ」

簡単に言いやがって……でも、やるしかない。おそるおそる口に含む。

ゴクッ

「……ぅ」

一瞬眠気が襲ってきたのが分かった。だがまだ耐えられる。次はさっきより多めに飲んだ。まぶたが一瞬閉じそうになったが、耐えることができた。この勢いのまま一気に残りの魔法薬を飲み込む。眠気がまた意識を刈り取ろうとオレを襲う。歯を食いしばって目をつむらないようたえること数十秒。眠気が晴れ、なんとなくスッキリした気がする。

「どうやらお試しは成功したようだね。次は同じものを一気に飲もうか」

イアンが次を促してきた。とりあえず今は言われたままやるしかない。さっきと同じように魔法薬をつくり、今度は一気に飲み干した。

ゴクッゴクッゴクン

意識が遠のく。身体が倒れようとしているのが分かった。

(耐えろっ!オレ!!!)

「ふんっ!……ぐっ、はあっはぁっ」

気合でなんとか踏み止まり、意識を保つ。1分もすると眠気は去っていき、なんとか耐えきった。

「うん、ちゃんと耐性がついたようだ。第1段階はこれで達成だよ。おめでとう」

相手がイアンでも、褒められるのはやっぱり嬉しい。こんなので絆されてしまうのはイアンの人の扱いが上手いのかオレがチョロいだけなのか。なんにせよ、最初から躓くことにはならずに済んでよかった。

「次の中濃度の魔法薬はどうやって作るんだ?粉の量を増やすのか?」

「いや、流石に違うかな。まずはもう1回採取に行こうか」

そう言われてオレはかなり不安になった。イアンならまたあの道のりを1人で行くように言いかねない。

「もちろん連れてってくれるよな?」

またほぼ1週間、まったく気の抜けない1人旅というのは困る。

(アイツもさすがに敵が絶えず蔓延っているような場所に居続けてるはずはない、これぐらいは許されるはずだ)

「まあ、寝てるときのちゃんとした安全確保の方法がレネードにはまだないもんね。教えるのはまだ先でいいと思ってるし、今回は連れて行くよ」

()()()()は頼む」

「あははは、了解了解。じゃ、行くよ」

イアンの鎧を掴むとまた景色が高速で流れていき、青い花が咲き乱れる森へ着いた。

「今回は花を根っこから抜いてくれる?5本くらい」

着いて早々にイアンが言った採取は前回とは違い花そのものを必要とするらしい。根から引き抜くとなるとそれなりに苦労がいるが、自前で魔法薬を作ることもあるため、手間はそれほどかからずに手に入れることができた。イアンの方を見ると蝶のような魔生物を捕まえていたらしい。イアンは5匹ほどカゴの中に入れていた。なぜだか妙に魔生物たちが暴れているような……?

「よし、採取は終わったし、帰ろうか」

「あ、ああ。分かった」

家に戻ってきてイアンに言われるがままに材料を用意したあとに言われた調合の手順は、低濃度より遥かに本格的で魔術じみたものだった。 

中濃度魔法薬の作り方

・あらかじめ箱の中で争わせていた魔生物のうち死んだものの触角と四肢、羽を切る。排泄物も取り除く。生き残った一匹は違う入れ物に保管しておく

・魔生物の身体を魔力を込めながらすり潰す。このとき箱の中に付いている鱗粉なども一緒に入れる

・砂糖と精水を軽く混ぜ合わせ、加熱する(加熱中は混ぜない)

・いい感じになったら加熱をやめてすり潰したものと一緒に羽で包んで調合を行う(今回は4つアメを作る)

調合が成功し、低濃度の魔法薬より青みが深まったアメができた。

「うん、調合はうまくいったようだね。じゃあ、アメを舐めてみて。噛んだり飲み込んだりしたら耐性がつかないから気をつけて」

できたアメは4つ。まずは1つコロコロと転がしていく。口のなかで溶けていることが分かると、強烈な眠気がやってきて、思わず膝から崩れ落ちた。

「ぐっ……」

このままでは無理そうだと思い、腕をつねることで眠気に対抗し、なんとか立ち上がる。数分間の格闘の末、1個目を乗り越えた。1つできると後は少しずつマシになって、他の3つも食べきることができた。途中から眠気に耐えやすくなっていたし、耐性ができてきたのだろうと実感する。この調子なら高濃度も問題なくできそうだ。

「お、やるじゃん。あとは高濃度だよ。油断はしないで、失敗したらまた低濃度からやり直しだから」

(後出しでそういう面倒なことを言う……)

先に言えよと声を大にして言いたいがもうどうしようもない。諦めて大人しく高濃度の魔法薬の作り方を聞くことにした

高濃度魔法薬の作り方

・青い花に含まれている水分を限界まで絞り出し、そこに花弁を浸す。他は廃棄

・花弁に魔力を通して水分を吸収させる。完全に水分が無くなるまで吸収させる事が大事

・保管しておいた魔生物と花弁を魔法陣に置き、『調合』の最中に特定の詠唱をして『合成』を行う

(聞き慣れない言葉が出てきたな。高濃度となるとさらに特別な手順が必要なのか)

「まずは『合成』の説明からしようか。『合成』は言わば『調合』から派生した魔法。調合では作れないような魔法薬を作るのが『合成』なのさ」

イアンにそう言われるがあまりピンと来ない。大体の魔法薬は『調合』によってできるはずだ。【生活魔法】とはそのくらい便利であることに特化した魔法なのだから。

「『調合』で作れない魔法薬?そんなものがあるのか」

「そう、魔生物を作り変える、とかね」

「魔生物を作り変える??」

ますます分からなくなってきた。作り変えるということは保管した魔生物を……ということだろうが、それをすることに意味があるのか。濃度をより濃くするためだろうか。

「作り変えた魔生物から魔法薬を作るのか?」

「いいや。作り変えた魔生物が魔法薬そのものなんだよ」

「はぁ???」

いよいよ訳が分からない。そのままの意味で捉えるのならオレはこの魔生物を食べなければいけないのか。

(抵抗がそれほどあるわけではないが……緊急時でもないのに昆虫食(?)を食べることになるとは)

「因みに鮮度が落ちたら意味がないから踊り食いだよ。合成から5分以内に食べてね!」

「本当に言っているのか?それ」

本当なら今すぐ頭を抱えたくなるような事柄だ。絵面の酷さを想像してしまった自分が憎い。

「もちろん。俺が嘘を言っているように見える?」

(やるしかないのか……)

今までの慣れと諦めが染み付いてもはや何も感じないようになっている自分を慰めてあげたい。やるしかないと決まったので次に進むことにした。

「それで、どんな詠唱なんだ?」

「えっとね、 『我が魔力に属し生命よ、その身は法外の力に侵され我が糧となる。全てを我に委ねその生を華々しく散らせ』とまあこんな感じかな」

(恥っっっっずかしすぎる!!!なんだそのこっ恥ずかしい詠唱は!!!?詠唱と言われて薄々嫌な予感はしていたが、これほど羞恥心を抱く事象は中々ないに違いない。アイツがこれを言っているのを見たら間違いなく爆笑する自信があるぞ。イアンもこれをそんなサラッと言えてしまうなんて……勇者も楽じゃないんだな)

あまりに恥ずかしい詠唱を教えないといけない立場のイアンに少しばかりの同情を感じたところでオレは魔法薬(合成生物)作りを再開し始めた。さっさと終わらせて心の平穏を取り戻したい。水分を吸いきった花弁と保管している魔生物を魔法陣の上に置いて魔力を込める。意を決してオレは詠唱を始める。

「わっ、『我が魔力に属し生命よ,その身は法外の力に侵され我が糧となる,全てを我に委ねその生を華々しく散らせ』ぇ!」

半ばヤケクソ気味に詠唱し、成功をひたすらに祈る。

ボンッ!

「っ!?げほっ、ゲホッ、ゴホッ、ぅう……し、失敗したのか……??」

なぜか青色の煙が出てきてしまい、オレは盛大にむせてしまった。失敗したのかと涙目になりながら目を向けようとしたら、イアンの焦った声が聞こえた。

「レネードッ!早く食べるんだ!」

その焦った声に促されて魔生物が入っているであろう器を手に取り、咄嗟に羽を掴んでそのまま口に入れて噛み砕いた。その瞬間に襲ってきた強烈な眠気にやられて倒れ込んでしまった。このままではやり直しになってしまう。

「『風切』っ!」

咄嗟に魔法で身体を浅く切り、意識をギリギリ保つ。

「『風切』っ『風切』っ『風切』!」

意識を必死に維持し続けて、なんとか立ち上がり、口に残っている魔生物の羽やらを気合で飲み込んだ。そのまま思いっきり力を込めて頬をつねるなどして眠気と格闘すること約10分。腕や脚に微かな痛みと、まるで虫歯にでもなったかのように大きく腫れた頬の痛み、ドッとした得も言われぬ疲労感が自身にあるものの、とてもスッキリとした気持ちになっていた。今はただ、流れる風が心地いい。

「おめでとう。確かに『睡眠耐性:高』がキミのステータスにあることを確認できたよ。これでやっとダンジョン攻略に進める。レネード、キミと冒険するその時が楽しみだよ」

とてもワクワクとした表情でイアンはオレにそう言った。

(なんで成功したオレより嬉しそうな顔してるんだか。こういうとこ、アイツにそっくりだな。もし会ったらさぞ気の合うことだろう)

「まったく、気の早い勇者さまだな、あんたは」

かなり弾んだ声で、オレはそう返した。勇者との冒険が始まるまであと少し。目の前のダンジョンに集中すべきだと分かってはいるが、未来への確かな希望を感じずにはいられなかった。

中濃度魔法薬の作り方

・あらかじめ箱の中で争わせていた魔生物のうち死んだものの触角と四肢、羽を切る。排泄物も取り除く。生き残った一匹は違う入れ物に保管しておく

・魔生物の身体を魔力を込めながらすり潰す。このとき箱の中に付いている鱗粉なども一緒に入れる

・砂糖と精水を軽く混ぜ合わせ、加熱する(加熱中は混ぜない)

・いい感じになったら加熱をやめてすり潰したものと一緒に羽で包んで調合を行う(今回は4つアメを作る)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

高濃度魔法薬(合成生物)の作り方

・青い花に含まれている水分を限界まで絞り出し、そこに花弁を浸す。他は廃棄

・花弁に魔力を通して水分を吸収させる。完全に水分が無くなるまで吸収させる事が大事

・保管しておいた魔生物と花弁を魔法陣に置き、『調合』の最中に特定の詠唱をして『合成』を行う

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皆で唱えれば恥ずかしくない!『合成』の詠唱

『我が魔力に属し生命よ、その身は法外の力に侵され我が糧となる。全てを我に委ねその生を華々しく散らせ』

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