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第十一話:束の間、日常へ戻る

(おはよう)

目を覚まし、最後の道のりを地図で確認する。あと2時間もすれば辿り着くことができるだろう。油断はしないが、焦る必要はない。

[目的地まで、およそ3時間です。現在、便利地図の使用に必要な魔力が減っています。すぐに魔力補充を行って下さい。繰り返します。現在、便利地図の使用に必要な魔力が減っています。すぐに魔力補充を行って下さい]

もう長くない道のりを進んでいく。モンスターラッシュからは抜け出せたが、変わらず道中では現れた。それぞれ適切に対処するうちに少し気付いたことがある。僅かだがオレの状態異常への耐性が少し上がっている……ような?時間的な余裕があることもあって自然と穏やかな気持ちになる。きっとこのまま何事もなく通り過ぎれるだろう。道を間違えないように地図をたびたび確認して、余計な動きはしないように、落ち着いて進んでいく。もうあと15分もすれば着く。そう思った直後

ヴゥ゙ンッ

鈍い音が微かに聞こえたと思ったら、自分を覆うように大きな影が現れた。

「は?」

頭上には、明確な殺意を表すトゲ付きの鉄球があった。

「『風跳』!」

ビュンッズドン!

数フレーム遅れていたら間違いなく致命傷だっただろう。

(トラップ!?ダンジョンはまだ先だろ!?)

ヴヴヴゥ゙ヴン

また鈍い音が聞こえた。今度は前方に大量の矢が出現している。

「『矢の群衆』!」

こちらも大量の矢を射って対応するが、後手にまわり続けているのがかなり苦しい。だがこんな明らかに人為的で殺意のある行動をオレにするのは間違いなくヤツだ。

(ふざけんなよ!!)

旅の道中にあまり妨害もなく、未知の領域に行くにしては平和であることに違和感があった理由はコレのせいである。

ゥ゙ン

「『風繭』」

全方向から伸びた槍を魔法で受けた隙に包囲網から逃れ、少しでも距離を稼ぐために走って進む。

ヴゥン,ヴゥン,ヴゥン

後ろから連続で音が聞こえ、一瞬見てみると、先ほどの槍が地面からどんどん伸びていて、こちらに近づいていて、ペースもかなり速い。

「【風魔法】『追い風』」

情報が少ない今、できることは逃げ一択である。分かるのは、おそらく目的地に到達できればこの凶器の連鎖が終わるであろうことだけ。必死に走っていた矢先に現れたのは先程顔を出したいくつもの凶器の数々。完全に囲まれ、槍に囲まれたときでさえ辛うじてあった逃げ場すら見当たらない。

「『風盾』!」

土壇場で魔法の短縮詠唱が可能になり、逃げ道をつくることに成功した。踊る剣から逃げ、降り注ぐ斧の下を通り抜け、短剣の急所を狙った一撃を躱し、ただひたすらに駆け抜ける。その先で待っていたのは必殺の極光。避けることすら許されない絶対的な光を前に取れる行動は___

バンッ!

気づけばオレは一番使い慣れた一撃を放っていた。渦巻く風が光の奔流を穿く……視界は白光に染められた。

(……っ!?どうなった?オレは生きているようだが……)

「長旅お疲れ様〜」

相変わらずの気の抜けた声だ。これからもこんな人間に振り回されるのかとまた憂鬱を感じる。

「さて、長旅の後すぐで悪いけどダンジョン攻略の準備をしようか。素材はここにいる魔生物から採取できるよ。状態異常解除の魔法薬も渡すから使ってね」

(悪いだなんて毛ほども思っていないだろコイツ!何が勇者だよ!)

旅での身体的疲労も何故か無くなっており、それが余計に腹立たしい。しかしイアンと共に活動することを今さら辞めるのも違うし、なにより母さんを助けるため、アイツに追いつくためにはこの人が必要なのは変わらない。

「はぁ……」

気持ちを切り替えて、採取をするために周囲を見回す。群生している青い花が風に揺られて、その内のいくつかに昆虫のような魔生物が止まっている。採取するのは花の花粉と魔生物の鱗粉だ。刺激しないように綿を使って採取していく。1時間かけてようやく必要な量の採取ができた。

「やあ、問題なく採取できたようだね」

「ああ。これで魔法薬を作るんだろう?どんな魔法薬なんだ?」

「後で教えるよ。ちょっと着いてきて」

イアンに連れられて青い花畑の奥へと進む。するとツタから生えた青い花で囲まれた、何かの入り口を見つけた。

「ここがダンジョンの入り口。そしてこの花は、おそらくダンジョン内で出現する罠の一つだろうね」

なるほど、と理解はするが、少し疑問が出てきた。

「罠?なら目の前に出しては意味が無いだろう。対策してくれと言ってるようなものじゃないか」

罠とは隠してこそ、その真価を発揮する。それをわざわざ報せるようなことでは簡単に攻略されそうだ。

「それがダンジョンの特徴。ほら、メモ*に書いたでしょ?ダンジョンは周りの環境に影響される。だからこうしたヒントが表れるんだよ」

イアンに言われ前回のメモを思い出す。言われてみれば確かにそんなことが書いてあった。

「それはそうだが……案外簡単そうだな」

死の危険に常に晒されることは分かっていたが、こうもあからさまに対策が示されていると分かると少し楽な気持ちになった。

「そうでもないよ。ダンジョンは周りの環境の濃度を濃くした室内みたいなものだ。この青い花は[睡眠]の状態異常を与える花粉をばら撒く。これから作る魔法薬はそれに素で対抗してもらうために[睡眠]の耐性を付けるために使うんだ。殆ど無効化できるまで飲んでもらうから、覚悟しといて」

「ああ、わかったよ」

イアンは油断しないように注意してくれてるのだろう。冒険の先輩の言うことには従うべきだ。ちょっとだけイアンを見直し、ありがたく忠告を受けとめる。

「よし、なら早速作りに戻ろうか」

まさかあの道のりをまた……!?

「ボクに掴まって。大丈夫、振り落としたりしないよ」

「なら頼む」

どうやらイアンが運んでくれるらしい。妙に優しいな……まあいいか。

「行くよ~それっ」

キィィィン

「っと。はい、着いたよ」

イアンの合図と共に風景が置き去りになったことだけがわかり、気づけば目の前にはよく見慣れたオレの家があった。

「あんた本当に魔王倒すのにオレがいるのかよ……?」

正直このレベルについて行かないといけないと思うと辞めたくなる。今からでも断るべきか……?

「もちろんだよ。それに、仲間がいないと淋しいじゃないか」

相変わらず読めない言い方だ。はぐらかされているなら、もう正直にぶつけてしまうか。

「オレじゃなくてもいいだろって言ってるんだ」

言い方が少し子供っぽく聞こえるかもだが、この際今までの怒りも込めて問い詰めたかった。オレは本当に必要なのか?

「俺は仲間にするならキミが良いと思ったんだ。本当だよ、勇者の名にかけて誓える」

とんでもない発言だ。勇者ってのはこんな言葉を恥ずかしげもなく言えるのか?

「……そうか」

思いがけない言葉に口が上手くまわらない。そっけない返事しかしなかったのは申し訳ないか。いや、コレぐらいでいい、きっと。

(あー、なんかもう、色々イラついても許すしかないというかなんというか。アイツもこんなんだったな……足の速いイケメンって皆こんな感じなのか?)

どうでもいいことで悩んでしまっている。オレもまあまあ図太いのかもしれない。パンッと両頬を叩いて気を取り直す。同時に自分が随分汚れていることがわかった。

「よし、まずは風呂だな。あんたも入るだろ?先に入っていいから、ちょっと待っててくれ」

「ありがとう。お言葉に甘えさせてもらうよ」

「生活魔法『自動設定(オートセッティング):風呂(バス)』」

募り積もった精神的疲労も、いつものように生活魔法を使っていると気にならないかもしれないと少しだけ思う。まあ、風呂に入ればそう思う必要もなく癒されるだろう。風呂を沸かしている間に昼食の準備も始める。この慣れた生活に戻ってきたんだと、改めて安堵した。

[お風呂が沸きました]

「お、ではさっそく失礼」

システムボイスが鳴り、イアンがそそくさと風呂へ向かっていった。

(別に急がなくても風呂は逃げないってのに、まるでアイツみたいだ。足の速い奴は本当に性格が似るのかもな)

何気ない日常。確実に近づいている試練の時も、今は忘れてしまいたい。20分ほど経ってイアンが風呂から上がってきた。オレは入れ違うようにして風呂へ向かい着替えた後、鏡で今の自分の身体を見つめる。すれ違ったイアンの肩幅などには全くもって及ばないが、イアンに会う前よりは確実に筋肉が付いてると思った。身長も伸びてる気がする。気がするだけかもしれないが、こういうのは気持ちの問題だ。成長しているという自信は持っていたい。しっかり風呂に使って癒されたし、台所も作業が終了したようだ。既に食器などが用意された机に座り準備万端なイアンの姿があり、思わず笑ってしまった。

「「いただきます」」

メモ*:第四話に記載。ダンジョンについての大まかな特徴などを書いている。

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