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第一話:勇者に会う

「はっ……」

見晴らしの悪い森の奥で、足元に転がる死体を見下ろし息を吐く。人間の血の臭いが鼻の奥まで届くが、もう不快感を感じることもなくなった。もう何度この集団が来たか分からない。物騒で鋭利な刃物を持った野郎がウチを襲ってくるのは日常になってしまった。最初は生け捕りにして情報を吐かせたりしたものだが、返ってくるのは

「お前の母親を殺しに来た」

という言葉だけ。生け捕りの意味がなかった。しかもオレの母親を狙ってきたくせに、オレを追ってくるなんてどういうことなんだか。そもそもここに母さんは居ないってのに……今ではどうすれば効率よく処理できるかを考えるようになっている始末だ。はっきり言って退屈だ。アイツも今こんなふうに転がる死体に飽き飽きしているんだろうか。(アイツ、何してるんだろうな)

そんなことを思ったが、すぐにその思いを振り払う。そして言い聞かせるようにオレは呟く。

「……未練がましいぞ、オレ」

すると、腹の音がぐぅ〜と鳴った。そろそろ帰るか。凶器だけ回収しておこう。

切れ味の悪そうな刃物を革袋に入れる。さあ帰ろうと振り向いたとき、目の前に光が降りてきた。

「なっ……!?」

あまりの輝きに、オレは咄嗟に目を隠した。何秒か経つと、光が輝く方から声が聞こえた。

「あ~ごめんごめん。眩しかったよね、もう大丈夫だよ」

どうやら光は収まったらしい。警戒しながら腕を下ろすと、そこには聖騎士と言うような出で立ちをした男がいた。

「……あんた、誰だよ」

目を疑うような現象に関わったあとは、大抵淡々とした生活とは程遠い時間が訪れる。アイツのことからオレはそれを学んだ。退屈な日々は楽しいとは思わないが、面倒ごとに関わるのは避けたい。だからオレは、少し逃げ腰になりながらそう訊いた。

「そう嫌そうな顔しないでくれよ。そうだな……あっ、それ……」

男はそう言ってオレの足元の残骸を指さした。

「これがどうかしたか?」

これを理由に何かの罪に問うたりでもするつもりかと、オレは警戒を強め男を睨む。

「それ、する必要がなくなる方法があるからさ、俺のお願い、きいてくれない?」

どういうつもりだ……怪しすぎる。だが、これらの処理が必要なくなるのなら……母さんも、安全になるはずだ。今のところ、これらが連日来ることを止める方法をオレは知らない。突然現れた怪しいやつだ。信用なんてできるはずがない。母さんを助けられるなら……この退屈な日常を終わらせれるのなら!オレは決意し、恐る恐る聞き返した。

「……なにをして欲しい?」

「外ではちょっと……君の家にお邪魔してもいいかな?」

やはりというべきか、話が長くなるような面倒ごとだろう。ただ獲物を狩って欲しいだけではないことは間違いない。とりあえず、一品増やさないとな。寝泊まりできるところはこの辺りではオレの家だけだし。

「……その前に今日の獲物を狩る。着いてきてくれ」

オレは、幼いちょろいやつだなんて思われないよう声を低くし、素っ気なく返事をした。

「もしかして泊まらせてくれるの?じゃあ、お手伝いしようかなぁ」

「……勝手にしろ。狩りの邪魔はしないでくれよ」

軽薄な男だ……得体も知れないし、油断できない。警戒しながらオレは獲物を探し歩く。すると男は勝手に喋り始めた。

「ボクの目的は一人だと達成できない。だから協力者が欲しいんだ」

こいつ……喋るのが好きなのか?いや、もしかしたらオレを探るためか?

「……静かにしてくれ。獲物に気づかれる」

オレは男に話すのを止めさせ、獲物を見つけることに集中する。耳を澄ませ、目を見開き、音と姿を探りながら歩く。しばらくそうして、ついに獲物を感知した。獲物から離れ、弓矢を構える。ヒュンッ、という風切り音と同時に、ギャア゙ッという声のすぐ後に、ドサッと音がした。他の動物がいないか一瞬見回し、すぐに獲物に近づき解体する。

「おお〜狩りってこんなにあっさり終わるものなんだね」

「……そうだな」

余計なことを言う必要もない。さっさと解体を終わらせようとしたそのとき、明確な殺気が男に向かっていることがわかった。

「おいっ!」

男を庇うため、オレは咄嗟に飛び出した。今こいつに死んでもらうわけにはいかない!咄嗟に解体用の短剣で受け止めた。殺気の正体は、狼だった。

(!?しまった!狼は集団で狩りをする……)

そう思考した瞬間、背後で狼の悲鳴が聞こえた。何事かと思いながら、冷静に、受け止めた狼を蹴り飛ばす。振り向くと、あの男が光を放つ、というより光そのものでできたような武器を持って狼を薙ぎ払っていた。勝てないことを悟ってか、狼は退却していく。オレが蹴飛ばした狼も共に去っていった。

(良かった……)

「ふぅ〜ビックリしたね。思わず弓を抜いちゃったよ」

「弓?」

「うん。これは弓だよ」

どうやら男が持っている光の武器は弓らしい。よく見ると確かに、光でできた弦がある。それを見て、オレはある一つの可能性を思いついた。

「……まさかあんた、勇者、なのか?」

「あれ?よくわかったね。あんまり弓で勇者だと判断する人いなかったんだけどなぁ」

ひょうひょうとしているその男が勇者であることに驚いたが、なんとか心を落ち着かせ、返事をする。

「だって、オレは……勇者に憧れて、弓矢を始めたから……」

小さな頃、オレはアイツと一緒に、母さんに絵本を読んでもらっていた。絵本に描かれている弓矢を携えた勇者の伝説を思い出す。

(アイツは槍を使う勇者の伝説に憧れて、木の棒を振り回していたな……)

っ、余計なこと思い出した。そんなオレの心情は知らず、この男……勇者は話す。

「えっそうなの?てっきり狩人の家系だから弓矢なのかと思ったよ。……そっかあ嬉しいなあ。俺に憧れて、かあ」

「いや、オレが憧れたのは、百年前の勇者で……今の勇者のアンタのことは知らない」

「あ、そっか。公にはそう言ってるんだったっけ(超小声)」

「?」

今何と言っているのかよくわからなかったが、確かにこの男は勇者なんだろう。光を放つ武器は勇者にしか受け継がれないって、あの絵本に書いてあったし。

「狩人くん、解体の続きやらなきゃダメなんじゃない?」

勇者に言われてオレはやっと解体途中だったことに気づいた。

「っ!早くしないと」

解体用の短剣を再び獲物に向け、オレは急いで解体をする。あんまり遅いと他の動物が奪いに来るからな。

(しかし、本当に勇者だなんて。“お願い”ってなんなんだよ?)

このあと告げられるであろう“お願い”に、大きな不安と憂鬱から目を背け、オレは解体作業を進めた。

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