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何が正しくて何が正しくないのか

作者: ざきみや

とぼとぼと歩く彼女の姿が、僕の脳裏にこびり付く。

浮気もされた。暴力も振られた。

それでも僕は彼女が好きだった。


彼女とは同棲をしていた。ただ一つ問題があった。

ーー彼女はうつ病を抱えていた。

仕方がなかった。彼女が僕に対してしたことは許されることではないし、世間一般的に見てもよくないことであると思う。それでも僕は彼女が好きだった。

だけれども「死にたい」といった彼女の声が、手首から流れる血の光景が、頭を壁にぶつける音が僕を未熟者だと知らしめた。


アルバイトから帰ってきたときの出来事だった。

机の上には散乱した包装シートがあった。中身は空っぽで薬を大量に飲んだことが分かった。

その日は幸運なことにアルバイトが早く終わり、帰ってこれたから気づけたものの、気づかずに薬をさらに飲んでいたら死んでいたかもしれない。気づいてよかったと心から思えた。

何でこんなに薬を飲んだのだと尋ねた。そしたらどうやら彼女は僕がいないうちに死のうとしていたらしい。ただただ彼女が死のうとしていたことが嫌だった。今までも「死にたい」と彼女が言うことはあったが、ここまで行動したのは初めてだった。彼女が限界なのが目に見えてわかった。


ーー僕も限界だった。

大学にアルバイト、家に帰れば家事に彼女の看病。夜も満足に眠れなかった。浮気もされて暴力も振られてなんでここまで面倒を見るのだといつも頭をよぎる。ただそんな感情をどこかに押しやり看病する。そんな日常にうんざりし、めんどくさくなってきていた。


「実家に帰れば」そんなときに出てしまった一言だった。

喧嘩したわけじゃない。ただ嫌なことから目をそらし、嫌な現実から逃げたいだけだった。

良く言えば彼女がより面倒を見てもらえる環境に行った。悪く言えばもう疲れたからと彼女を家から追い出した。

その時のとぼとぼと歩く彼女の姿が、「じゃあね」という声が、息苦しそうなあの表情が僕の頭から離れない。


ふと、たばこを買いに外に出る。

人肌恋しくなるような寒さがツンと肌に沁みる。秋の始まりを告げる虫の声が聞こえる。黒く白い空が僕を覆う。街灯に照らされた影がより一層、孤独感を引き立てる。

今日は遠回りをして歩く。普段歩きなれない道は新鮮だが、どこか不安を駆り立てる。

ーー果たして僕は大人になれているのだろうか。コートでも着て東京駅でコーヒーでも飲もうか。

人間の外見はいくらでも見繕える。簡単に大人になれる。内面はどうだろうか。

何が正しくて何が正しくないのか。きっと価値観は人それぞれで正解は無数にある。


帰り道、寒さと暗闇が僕を脅かす。

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