君と凍える夏の夜に
「高く広い夜空の下へ行きたい」
君の寂しそうな呟きを拾って
だけどこの街じゃそんな場所見つからないって
すぐには連れていけないって
自分の無力さを歯痒く感じながらも
せめてもと思って隣を歩いた
その日街は彩りで満ちていた
七月の間はそのままだという七夕飾り
天の川の切れ端のような短冊にどれほどの願いが込められていても
僕は君の願い一つ叶えることができない
祭りの帰りの人々の手に握られたりんご飴や綿菓子を
羨ましそうに見つめる横顔
「買って行こうか」そう声をかけようとしたとき
君は何事もなかったように僕の先を歩いていった
「ねぇ、少しだけ待って」
君が足を止めたのは小さな橋の上
人々のざわめきが止まって流星が真っ直ぐ落ちてきた
天と地がひっくり返った不思議な感覚
やがて流星は大きな音を立てて弾けた
逆さまのまま見入っていた
何度も何度も 幾つも咲く夜空の花
「来年もまた見れるといいね」
そう聞こえた気がしたとき 君の頬にも小さな星屑が伝った
何もかもが煌めいて 眩しくて
来年ここに僕がいる そうなればいいけれど
まだいくらか遠い先で道は別れているだろう
君にも僕にも別のすべきことがあった
逆さまに降り注ぐ幾つもの花びらが
氷の欠片のように冷たく見える
思わず手を握った
肩を寄せた
君と凍える夏の夜に
絶対なんてないからと
約束できるほどの力はないと
諦めたなんて認めたくないけど
それしか未来へ進む術がないなら
傷を幾つも負わずに済むなら
一度の深い傷でいい
君と凍える夏の夜に
この時間は記憶の中で 金平糖みたいに結晶を成して
固く鋭く甘く 僕たちの中に残り
やがてはゆっくりゆっくり 溶けていく
永遠になどなりはしない
味わい続ければ結晶は小さくなる
だけど味を形を覚えている限り
ここに在った事実は失くなりはしない
夜空はぐるりと回って 天と地は元通り
君はもう泣いていない
寂しそうな微笑みがこちらへ向く
柔らかな髪をそっと撫でながら
熱く込み上げるものを飲み下した
凍えるほど寒かった夜
手は繋いだままその熱に支えられ
君を家まで送っていく
よく泣いて よく眠って
つらいもの全部洗い流して
そうやってまた明日を迎えて
僕が心配し続けなくてもいいように