星に手は届かない
[バレないように]
「君は上手くできすぎなんだよ」
何なんだよ。上手くいかねぇと軽い拳で殴る癖に
「その気色悪い見た目はどうにかならないのかしら?」
知るわけねぇだろ。アンタらが産んだんだ
「君に人の感情なんて要らないよ。ほらその見にくい水を止めなさい。」
………、クッソ
バチッと柑橘系の色をした瞳が開いた。
(嫌な夢を見たな……。)
そんな事を呑気に考えながら天を見上げ、軽く紐を持っていた風船を手放した。商店街でくれた風船。
深い群青色の大きく広がる空に上がる風船。どんどん小さくなっていくピンクの丸。
夜空に上がった月と星。そして風船。
どんだけ手を高く伸ばしても、決して届かない高みにある沢山の輝きに焦がれる。
何も考えずに身を後ろに乗り出させる。
風に軽く包まれているような感覚。そんな浮遊感が拭えない。
ブランコを漕いだ夜のような、海に長く揺られた夜のような虚無感。
大きな何もない灰色の瞳の奥に咲いたピンクの鳳仙花は瞳の外から出ることを嫌がっている。
星と一緒にの中に映るように咲き誇るその花は、どんどん灰色に呑まれていく。その姿まで美しい物だった。
どんなに才ある花でも出なければ意味もないといのに。
そうか今ボクは落ちているのか。と言っても此処は電柱の上。死ぬ事はない。
ならばこの状況はそんなに考える事はない。深く考えずともボクなら死ぬ事はない。
昔からこんな事ばかりやっていたボクだから死ぬ事はない。
バケモノのボクは死ぬ事はない。
キメラ実験による数少ない成功者であり、沢山いる中の失敗者の一人。
梟と人間のハーフとして生まれ、戦闘機として育てられ、そして最大限にその能力を引き出せた最悪の成功者。
何故かって、梟の能力を持ちすぎて生まれた。そして施設を仲間と抜け出し、自分だけ生き残れた。
少年漫画のテンプレート見たいな展開。漫画という物を知らなかったボクでもすぐに理解できるほどの。
『ドサッ』という音がコンクリートに響く。星からドンドン離れていくボクの体は遂に地面に叩きつけられた。
強い衝撃が体に走り背中がジンジンと痛みが響く。
だがその痛みも時期に引く。
ボクが人間であるという証拠はドンドン離れていく。歳を重ねるにつれて弱くなる感覚と感情。それは戦闘機として嫌でも自覚を持たされる。
そのはずだった。
ボクは確かに地面に落ちた、だがその先は痛くなかった。痛みを感じなくなった訳ではない。どちらかと言えば温かい。ボクは気づいた。これは人の腕の中だ。そしてゆっくり開けた目線の先にいた人類の形にボクは驚いた。
「お待ちしておりました。
実験台番号0354様。
さぁ貴方の居るべき場所に戻りましょう。」
背筋が素早く凍る感覚。
血の気が引き、口の中が乾く。白い白衣に、特徴的な眼鏡。輝くかのような緑の髪。
そして首から下げられている名札には、『水城 柳』と書かれている。その名前は嫌というほど覚えている。ボクのいた組織の五本指に入る実力者。数少ないキメラ実験の成功者。
龍と人間のハーフであるこの男は何故かボクに執着している。……いやボクの能力に執着している。
「い、いやっ」
と咄嗟に出た声。締め付けられるような喉から出た声。
「おや?この状況で貴方に選択肢が有るとでも思っているですか?」
ボクは唇を噛んだ。汗をかいている拳を固く握る。コイツのいう事は大方あっている。この状況、ボクだけの力だけでは抜け出せない。だけど、
「残念だなボクは今、力を持っている」
「何を変ない事を……、頭でもおかしくなりましたか?」
いつ見ても腹が立つ顔を見ながらボクは溜め息をついた。そして、明るい月に照らされ明るく輝く懐刀をボクは取り出した。
そして彼に突き刺した。
彼の流暢としている瞳は動揺の色を出し、刺された傷跡を見てこう言った。
「まさか、貴方『合盤乱』に入りましたか?」
「………」
「沈黙は肯定と受け取ります。」
「都合の良い脳みそだな」
「すいませんね。ですが一度失礼しますよ」
「中身はバケモノの正義の味方さん」
と言い彼はビルを駆け上がり物凄いスピードで空を泳いだ。まるで龍のように夜空という空間を泳いでいった。
合盤乱とはキメラを殲滅する組織である。
キメラは人の血肉を喰らうため殲滅すると言うのが元軸となり今では、キメラの責任組織として動いている。
その合盤乱で作られた武器のみ特殊な肌を持つキメラに傷をつける事ができるのだ。だか
アイツはあの時驚いた。自分の体から出る血を見て。久々の感覚だったのだろう。
「中身はバケモノの正義の味方さん」
という言葉が頭の中で何度も何度も繰り返して流れている。ボクの心に一番刺さる言葉はボクの心に見事に刺さった。
見た目は人で中身はバケモノ。いくらラベルを変えただけでは中身のものは変わらない。
ボクが正義の味方の仮面をかぶろうと中身が露天して仕舞えばお仕舞いだ。
だからバレないように、殺されないように、ボクは身を潜めていた。
そんな時、声をかけてきたヤツがいた。
ボクを合盤乱に誘った張本人。ボクの所属する部隊のトップであり、師匠。ボクは彼らに復讐する為にこの組織に入り、キメラの情報を集めている。
もうこれ以上、悲しき美しいバケモノを生み出さないように。
ボクは空を見上げた。ボクは星が大好きだ。沢山有る星は美しく光を出している。そしてイラストで描いたときに可愛い。だからボクは星に手を伸ばした。
掴めない輝きを見せつけてくるかのような綺麗で醜い星に。
月明かりを背負い歩き出した時、
「おい、バカ。勝手に何処か行くなよ。自殺未遂なら尚更だ。
本当にいつか死ぬぞ。キメラみたいなバケモノではないんだから。」
と話かけられた。
キメラみたいな、ね……。
「わかってますよ。俺はバカではないので」
と返事をし、部隊長について行った。
ボクは死にたい訳ではない。あの感覚が好きなのであって、死んでしまったら本末転倒だ。
バレないように、目的を果たせるように。仮面を被り過ごしてみせようではないか。
半端者のボクは完璧に人間を演じて見せようではないか。
バレた時はバレた時だ。今は今の生活を楽しもう。
過去の俺のように、実験に使われ薬漬けにはされない。人に利用されたらなんかは絶対にされない。
大人の汚ねぇ実験で死ぬ子供も生まれる子供も居ない世界を作り出す。
その為ならばテンプレートな展開にでも喜んで足を踏み入れよう。
その為ならばボクが死んでも構わない。
彼は歩き出した。変わらない過去の自分を癒すように。
自分の正義を果たす為に。
彼の花が世間に知らしめられるのはもう少し後の話になりそうだ。
読んでくれてありがとうごます。
こちらで『星に手は届かない』は終わりとなります。
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