調査
私は執務室で、魔族に襲われた村の報告書を調べていました。
「ジュリアの村が襲われたのですね」
ジュリアは、村が襲われ、住処を追われたところを勇者一行に助けられて、城の使用人になったようだった。
その時、魔族からジュリアを助けた剣士の名前が、アンサ。
「命の恩人だったのですね。確かに勇者たらん実績はあるようですね。他の村は……」
襲われた村は男はみなごろしにされている村が多かったが、女は凌辱されたが殺されなかったといった記録の村もある。
「酷いですね。魔族だからと言ってしまえばそれまでですが……」
腹を突き破って生まれたという事実はない。
ましてや角を生やした子供が生まれたという事実も。
「ロンダの話では、必ずしも角が生えた子供が生まれるわけではないとのことでしたが……」
優性遺伝といっていた。
かなり確率は高いはずなのに、一人もいないというのは、不自然だ。
「別に、魔族だけが悪く、人間が悪くないというわけではないでしょう」
王都でも、女を襲うような人間もいた。
普通の人間でも悪事を行うものはいる。
私はロンダに助けられた日のことを思い出し身震いをする。
「魔族と人間の違いは角だけね」
魔族が人間の振りをするのは大変だが、人間が魔族の振りをするのは簡単に思える。
「もう少ししっかり調べてみましょうか」
◇ ◇ ◇
私は教会兼孤児院を訪れた。
魔族に襲われた女性が、捨てていった子供もいるとのこと。
「カーナ様どうして、こんなところに」
付き添いで来たジュリアが不平を言う。
「たまには税金がしっかり使われているか確認しませんと、国民から不平不満がでるでしょう」
「ですが、護衛も付けずに」
「大通りしか通っていないから大丈夫よ」
お忍びの服装をしている。
夜の街にも何度も一人で来ているのだ。
たいしたことはない。
「王女様よくぞいらっしゃいました」
初老の神父が迎えてくれる。
「孤児たちの様子はどうですか」
「おかげさまで、皆息災です。ただ心に傷を負いふさぎ込んだままの子も多いです」
周りをみると、暗い顔をした子供もおおい。
私は、手を口に大きな声で言った。
「みなさん来てください。お菓子いっぱいもってきましたよ」
籠から、お菓子を掲げてみせた。
「カーナ様これは?」
「私のお菓子ですよ。あるだけ全部持ってきました」
よく食べているマカロン。
甘ったるいクリームのついたケーキ。
頬が落ちるほどの飴玉など。
入るだけ籠に入れてきた。
「これではカーナ様の分が……」
ジュリアが心配そうに言う。
甘味は貴重。
城といえど無限にあるわけではない。
「ケーキがなければ、パンを食べればいいでしょう」
「それは、そうですが……」
当たり前の話。
もちろん私も餓死はしたくありません。
自分が食べる分の食料を全部あたえるわけではありません。
子供たちは、嬉しそうな顔をして近寄ってきます。
「ありがとう。王女様」
にっこり微笑みかける。
近寄ってきた、子供たちにの頭を撫でながら、お菓子を渡していく。
(角がある子はいませんね)
それに、優しさだけでふるまっているわけでもない。
目的は、本当の意味での魔族の子がいるかどうか。
角の確認だ。
孤児院の資料では、ここは魔族に襲われた女が捨てていった子供が多いとのことだった。
やはり資料だけでは、分からないこともある。
「これで全員かしら? あの子は?」
見渡すと、隅っこにこちらに来ず座り込んでいる子がいた。
「あの子は、魔族に襲われた女が孕んだ子でして……」
「そうですか」
私は頷く。
魔族の子と確定しているのはありがたい。
籠から飴玉を一つ手に取り近づいていく。
「カーナ様!」
ジュリアが嫌そうな顔をしたが、無視して話しかける。
「どうぞ。甘いですよ」
私が手渡そうとすると、女の子は不思議そうな顔をして私を見ました。
「王女様、あたしのこと怖くないの?」
「どうして?」
「あたしには、魔族の血が流れているって」
「見た目何も変わりませんよ」
ただの小さな女の子をどうして怖いというのか。
この子が私になにかしたわけでもない。
「お母さんが、あんたなんか生みたくなかったって」
涙を流す女の子。
この国ではまだ安全におろす方法は確立できていない。
母親は、自分の命を守るためだけに産んだのだろう。
愛情の一欠けらも与えられていないことが見てとれた。
私は、抱き寄せてあげる。
「大丈夫ですよ。あなたは人間です」
頭を撫でてあげる。
角はない。
だけど、角のあるなしは関係ない。
子供は庇護の対象。
子供を大事にしない国に未来はないだろう。
「でも……」
私は、子供の目を見て話しかける。
「仮に魔族の子だったとしても、魔族も人間。今、少しだけ仲が悪いだけです」
ロンダとは、お互いに打算がある。
だったとしても、普通に話せている。
他の魔族とだって、普通に話す方法はあるはず。
「あなたも、お友達と喧嘩することもあるでしょう?」
「うん……」
「いつか、仲直りできますよ」
私は、自分の言葉が他人だよりで気分が悪くなった。
定めを覆し、未来に進みたいのは、自分だ。
「いいえ、私が仲直りしてみせます」
運命やしがらみなんて、跡形もなく、壊すだけ。
この子のために。
自分のために。
決意を胸に、私は子供に笑みを浮かべた。
近くで生まれた憎悪に気づかぬままに。