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 私はジュリアではない召使いに買ってこさせた布で、服を作っていた。


「間に合うかしら」


 私はカレンダー見ながらつぶやく。

 もうすぐジュリアの誕生日だ。

 無理やり借りた服は、悪漢に襲われただけでなく、少し破けていた。

 そのまま返すのは心苦しいので、新しい服を作って誕生日に渡そうと思ったのだ。

 

「給料は増やす手はずになってはいますが、さすがにね」


 むりやり一番上等の服を持っていったのだ。

 多少は怒っているだろう。

 亡くなった母にならった裁縫を、たまにはしてみることに。


「たしかお古のドレスがありましたね」


 振るいドレスからフリルなどを外して、服に縫い付けていく。

 少しずつ仕上がっていく。

 ジュリアの綺麗な赤髪によく似合う服になりそうだ。


「カーナ様」


 扉の外からジュリアの声が聞こえて、私は慌てて、服を隠す。


「どうしましたか?」


 私は、扉越しに返事をする。


「国王様がお呼びです」


「なんでしょうか?」


 公務はすべて終わらせておいたはず。

 私は首をかしげながら、王の間に行くことにした。  

 

◇ ◇ ◇


 ジュリアと共に、王の間に着くと、玉座の前に見知らぬ男がいました。

 お父様が与えたのか装備などは一級品のいいものをつけていますが、30は過ぎている男です。

 顔に皺が出始め、黒い髪に白い部分もあります。


「どちら様ですか? この人は」


「昔なじみのアンサだ」


 お友達が訪ねて来たようだ。

 別に私を呼び出さなくても、応接室でも会えばいいだろうに。

 

 私がそう思いながら、二人のやりとりを聞いていると、お父様が信じられないことをアンサに言った。

 

「よし、お前を勇者に任命する」


 私は耳を疑った。


「勇者は死んだわけではありませんわ」


 勇者を想っているような演技を加えて話す。

 残念ながら、訃報の連絡は来ていない。

 勇者とは、一人であるから特別感が出て、人々の期待が集まるというもの。

 どうして勇者を増やすという選択肢になるかわからない。


「うむ。だが、前の勇者はあっさり死んでしまったからな。用心しておこうと思ってな」


 堪えきれず、私は言った。


「魔王を殺したいのなら、軍を編成して戦争すればいいでしょう」


 宣戦布告し、堂々戦えばいい。


「それでは、こちらに正義がないであろう」


 殺しに正義がありますか。

 悪意しかありません。


「勇者と軍の違いはわかりません」


「勇者とは、存在自体が正義なのだ」


「勇者が積み上げてきた歴史が正義なのかもしれませんが……」


 勇者は人々を救って回った。

 いや、人々を救って回ったものを王族が勇者と呼んだのだ。

 

 私は目の前の男を見る。


「この人が勇者?」


 お父様は昔なじみと呼んでいた。

 確かに実績があるのかもしれないが……。


 私は独りごちる。

 

「本当に勇者が魔王を倒すことが正義なのでしょうか?」

 

 昔は、魔族に襲われた村もあったそうだが、今では聞いたこともない。

 もちろん戦争するのであれば、人々を煽動する正義を作り上げる必要はある。

 今となっては、軍と勇者の違いがあまりわからない。


「とにかく、勇者アンサよ。魔王討伐頼んだぞ」


「はっ」


 新たな勇者は短く返事をする。

 そのまま、王の間を出て行った。


 私に色目を使わなかっただけ他の勇者よりましだった。

 ただ結婚できるかと言われれば、あんな年増とできるはずがない。

 どうしてこうも私の好みから程遠い人物ばかり勇者になるのかわからない。


 私は無意識に、ロンダにもらった指輪を握りしめていた。


 ふと隣をみると、うるんだ瞳で勇者が出て行ったあとを見ているジュリアがいた。


「剣士様……」


 頬を赤く染めて、まるで恋する乙女のようで?


「ジュリア? どうかしましたか?」


「い、いえ、なんでもありません」


 ジュリアは、慌てて王の間から出て行く。

 どうやらお父様は、私に新しい勇者を一目見せたかっただけのようなので、私も部屋に戻ることにした。


「ジュリアのことを気にしている場合ではありませんね。新しい勇者について調べませんと」


 前の賢者あがりの勇者も気になる。

 とにかくしっかり調べて、魔王にリークするしかありませんね……。

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