ヒヨコちゃんのクッキー屋さん(1)
今回はベリアルが主役です。
「なんだよ、これ……」
市場でクッキーを売る手伝いをするって言われて来たけど……
オレは、なんでこんな服を着させられてるんだ?
あり得ないだろ……
純白のドレスって……
しかも頭にはクルクルの腰まである金色のウィッグに、巨大な真っ白いリボン……
「ぐふふ。堪らないね。花嫁さんみたいだよ。ぐふふ」
ぺるみの奴は、また意味の分からない事を……
「ハナヨメサンってなんだ?」
「ん? えっと……結婚する女性かな? 結婚式の時に真っ白いドレスを着るんだよ」
「ドレス……? ふーん。ぺるみはもう着ないのか? ルゥの時は着たけどぺるみになってからは着てないだろ?」
「え? あはは。あの時はハデスにずっと抱っこされて恥ずかしかったよ」
「もう一回ちゃんと宴をしたらどうだ?」
「うーん……しばらくは忙しそうだし……それに、ルゥの時にしたからもう大満足だよ」
「そういうものなのか? ところで……クッキーを売るのにドレスを着る必要があるのか?」
「ぐふふ。看板娘だからね。着飾らないと。後で先生も来るって言っていたよ?」
「まさか……このドレスを着たオレを見に来るのか?」
「もちろんっ! 先生は脳内にもう一人のベリアルを創りだして、その素敵なドレスを完成させたんだよ? すごいよ。ジャストフィットだね。さすが先生だよ。こんなに頑張って作ったんだから見に来るに決まっているでしょう?」
「……気持ち悪いを通り越して怖いな」
「あはは。さあ『超絶かわいいヒヨコちゃんのクッキー屋さん』の開店だよっ!」
「……ぺるみは制服なんだな。オレだけバカみたいじゃないか?」
「ん? わたしはジャックのお母さんにエプロンを貸してもらったけどね。えへへ。似合う?」
ぺるみは、かわいいから何を着ても似合うけど……
「大丈夫なのか? アカデミーの制服なんて……昨日の公開処刑で興奮してる平民に襲われたりしないのか?」
「ふふ。大丈夫だよ。それに……アカデミーに平民を入学させるって決めたのはお兄様なの。アカデミーを平民と貴族の架け橋にしようと思ったんだろうね」
「だから制服で来たのか。ぺるみはヘリオスの政策を応援してるって皆に分からせる為に制服なのか?」
「うん。わたしはお兄様を陰ながらこっそり応援したいの」
「……ぺるみらしい、やり方だな」
「えへへ。あ、お客さんだよ」
「ん? 前の席のジャックとリリーだ! 来てくれたんだな」
貴族だけど前から市場に出入りしていたから、平民が怖くないのかもしれないな。
「ヒヨコ様……世界一かわいいですっ!」
「あの……握手券がもらえるって聞いて」
ジャックと婚約者のリリーが瞳をキラキラ輝かせている……
ぺるみめ……
握手券なんて絶対に嫌だって言ったのに!
「ぐふふ。今ならクッキーを一袋買うとヒヨコちゃんと握手ができますよっ! さあさあ、最後尾はこちらですよっ! ぐふふ。わたしは今から『はがし』に専念させてもらうから、ここからはお手伝いを頼んであるんだよ」
……ぺるみ。
やる気が溢れているな。
でも、誰に手伝いを頼んだのかな?




