あまりに変わり過ぎて誰だか分からない時ってあるよね
「ふふ。本当にかわいいわ。ヒヨコ様、このお菓子も食べて?」
お人形みたいにかわいい女の子だね。
誰だったかな?
「うまあぁぁぁぁい! こっちのお菓子も、うまあぁぁぁぁい!」
ベリアルは簡単に誘拐できそうだよ。
お菓子をもらっても付いて行ったらダメな事をもう一度ちゃんと話さないといけないね。
「モグモグモグモグ……ありがとう! スウィートは優しいんだな」
……え?
スウィート……?
「もしかしてスウィートちゃんっ!?」
「ああっ! 恥ずかしいからその名で呼ばないで!」
「やっぱりスウィートちゃんだ。うわあぁ! かわいいなぁ。控えめなメイクがすごく似合っているよ!」
「……恥ずかしいわ」
「もう、謹慎は終わったの?」
「まだよ。でも、今日はペリドット殿下に話があってね」
「ふふ。殿下なんていらないのに」
「それはダメよ。わたしは公女で、ペリドット殿下は王妹殿下で聖女様なんだから」
敬語じゃないのは気にしないんだね。
そこがスウィートちゃんらしくてかわいいけど。
「じゃあ『殿下』は、いらないかな。慣れないんだよね。それで、スウィートちゃんはわたしにどんな話があるの?」
「あぁ……そうなのね。じゃあ、ペリドット様……実は昨日邸宅に商人が来たの」
「……え? まさか……」
「ええ。おじい様がすぐに怪しいと気づいて。少し前まで遊びに来ていたアメリアに『怪しい小瓶を持ち込む商人に気をつけろ』と言われていた事を思い出したのよ」
「アメリアちゃんが遊びに行っていたの? そういえば友達になったんだよね。それで、小瓶は?」
「商品がどれも流行遅れでひとつも買わなかったのに小瓶をもらって欲しいとしつこく言ってきたのよ。明らかに怪しくて何も受け取らずに追い出したわ。魔素を持っているような商人を、兵士でもないわたし達が捕らえられないしね」
「確かにそうだね」
「陛下に話しに行った帰りにアカデミーに寄ったのよ。帰ったらまた家から出られなくなるわ」
「……退屈じゃない?」
「そうでもないわ。旅に出る前に世界の勉強をしないといけないし、アメリアも毎日来てくれるし。昨日はすぐに帰ったけどね」
「あぁ……公開処刑があったからね」
「……あの時……ペリドット様がわたしとおじい様を助けてくれなかったら……わたし達が代わりに処刑されていたはずよ。ジギタリスの奴らはわたし達に全ての罪を被せようとしていたんだから」
「でも……ずっと信じてくれた人間もいたんだよ?」
「……アメリアの婚約者の宰相ね」
「うん」
「わたし……見ていたの」
「え? 何を?」
「公開処刑よ。ちょうど陛下に商人の話をしに行っていたの。陛下はバルコニーから見ていたけど、わたしはそこまでしっかり見たくはなくて。だって、もう少しでわたしがあの場に立っていたかと思うと怖くて……」
「……そう」
「陛下は平民の豹変ぶりに驚いていたわ。でも、おじい様と話したら落ち着いたみたいね。あの場におじい様がいて良かったわ」
「スウィートちゃんのおじいさんとお兄様はどんな話をしていたの?」
「確か……先々代の陛下は平民にこっそり会いに行って一緒にお菓子を食べたり話をしたりして過ごす事もあった……とか。あとは……ペリドット様が市場の平民の暴動を未然に防いだ。王である自分は守られてばかりだ……とか?」
「そんな……わたしの方がいつも守られているのに」
「陛下は立派よ。昨夜市場に行って平民と話してきたわ。おじい様も一緒にね。わたしは連れて行ってもらえなかったけど……でも、帰ってきた時にはいつもの凛々しい陛下に戻っていたわ」




