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想いは伝わるものだから

 さて、今日はアカデミーに余裕で着けたよ。

 いつもは遅刻ギリギリだからね。

 王子達は昨日からそれぞれ一時帰国しているんだ。

 今日ベリス王の娘さんが亡くなった事にするから、明日の葬儀に備える為らしいけど。



「あ、ペリドット様……」


 クラスルームに入ると前の席のジャックが話しかけてきたよ。

 他の皆はまだ来ていないんだね。


「ジャックは早いんだね。今日は一番に着けたと思ったのに」


「オレは寮から来てますからね。あの……昨日は……えっと……」


「あぁ……公開処刑の事?」


「……知ってたんですね」


「……うん」


「ジャック達はずっと寮にいたの?」


「はい。危険だから外出禁止になりました。寮にいる平民の何人かは見に行ったみたいです」


「……そう」


「公爵は最期まで暴言を吐いていたみたいですよ」


「……え?」


「『平民のくせに』とか『呪ってやる』とか」


「……そう。遠くて聞こえなかったよ」


「……? え? まさか……見に行ったんですか!?」


「うん。行ったよ」


「え!? 危険ですよ!」


「お前……見に行ったのか!? バカか!? 内緒にしてたのに!」


 ベリアルも知っていたんだね。

 わたしの為に黙っていてくれたんだ。


「心配してくれてありがとう。でも、行けて良かったよ」


「良かった……ですか?」 


 ジャックが不思議そうに尋ねてきたね。


「うん。平民の皆とお兄様の覚悟を知れたから」


「覚悟……?」


「少しずつ世界は変わってきているみたいだよ」


「変わってきている?」


「先々代の王様の想いが平民の皆に伝わって、その平民の皆がお兄様を救ったの」


「……え? それは?」


「想いは繋がるものなんだね」


「……?」


「ジャック……」


「はい?」


「わたしに出会ってくれてありがとう」


「……え?」


「ジャックに出会ったからわたしは人間をもっともっと好きになったんだよ?」


「ペリドット様?」


「いつか……百年後とか二百年後に……わたしとジャックのこの出会いが何かに繋がっていくのかもしれないね」


「……オレには難しくてよく分からないですけど……オレもペリドット様に出会えて嬉しいです」


「あ、そうだ。今日ね? クッキー屋さんのお手伝いに行くの」


「え? 大丈夫なんですか? 昨日の公開処刑で皆興奮しているんじゃ」


「今朝も皆に会ってきたけど落ち着いていたよ?」


「今朝!? ペリドット様……お願いだからもっと慎重になってください」


「大丈夫だよ。平民の皆は感情をコントロールしているから。長い間虐げられてきたからだろうね。悲しい事だよ。自分の心を殺して生きているんだから」


「心を……殺して?」


「そうしないと辛過ぎて生きられないんだよ。クッキー屋さんのジャックをはねた貴族も軽い罪になるみたいだし……自分の子供を殺されそうになったジャックのお母さんはすごく辛いはずだよ? それなのにそれを顔に出さないの」


「我慢が限界に達したら……どうなるんですか?」


「もうとっくに限界を超えているんだよ」


「……え?」


「まるでゴミみたいに扱われているの。死んでもいいみたいに扱われているの。そんなの……いつまでも我慢できるはずがないよ」


「いつ暴動が起きてもおかしくない……?」


「その感情さえ抑えているの。見ている方が辛くなるよ」


「平民の皆はこれからどうなるんですか? ……オレは男爵家でバカにされてはいるけどそこまで酷い扱いは受けてきませんでした。貴族だからなのかな……平民はもっとずっと辛い思いをしてきたんだ。それなのに男爵家は平民みたいなものだなんて……きっと嫌な思いをさせたんだろうな」


「……ジャック」


「ものを知らないって怖いですね。知らず知らずに傷つけているんですから」


「その立場にしか分からない感情もあるからね。難しいよ」


「……オレも行きたいです」


「え?」


「一緒に市場に行って皆と話したいです。そうすれば、皆の気持ちを知れるから」


「そうだね。実際に触れ合わないと何も分からないよね。聞いた話だけで判断するのは危険だよ」


「先生の橋の話を思い出しました……」


「……うん」


「オレはきちんと向き合いたいです。リリーさんの領地に行くからあと一年も王都には居られないけど……その間にいっぱい話したいです。オレ……市場の皆が大好きですから。それなのにさっきは危ないからなんて言って恥ずかしいです」


「ジャック……」


 本当に真っ直ぐで優しい子だね。


「これ旨いな。ポリポリ……」


 ん?

 何かポリポリ聞こえてきたけど…… 


 ……ああ。

 ベリアルがお菓子を食べているのか。

 でも、どこから持ってきたお菓子かな?

 第三地区では見た事がないお菓子だね。


「うわあぁ! かわいいっ! こっちのお菓子も食べて?」


 ……?

 すごくかわいい女の子だけど制服を着ていないね。

 どこかで見たような気がするけど……

 誰だったかな?

 それにしてもベリアルは簡単に餌付けされているね。

 知らない人間からお菓子を貰ったらいけないって何度も言ったのに……

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