お父様、頑張る(2)
「うーん。そうだなぁ。その通りだなぁ」
吉田のおじいちゃんも、やっぱり辛いのかな?
辛そうな顔をしているし……
本当は心の声なんて聞きたくないのかも。
「晴太郎? どうしたの?」
お父様が吉田のおじいちゃんを心配しているね。
「んん。なぁ、天ちゃんは困ってるといつも誰かが助けてくれるだろ?」
「うんっ! 群馬でも天界でもそうだよ?」
「ありがてぇ事だよなぁ。困った時に助け合えるのは本当に良い事だよなぁ」
「うんっ! そうだね」
「じゃあ、天ちゃんは困ってる誰かを助けた事があるか?」
「え?」
「いつも助けられてばっかりで、助けた事はあるか?」
「……!」
「あったら言ってみろ?」
「うぅ……」
「天ちゃんは神様だ。分かるか? 天界で一番偉いんだぞ? この世界の人間達も神様を大切に想っているんだ。もちろん、オレは今の天ちゃんが大好きだぞ? 優しくて、温かくてなぁ。でも……そろそろ一人でなんでもできるようにならねぇとなぁ」
「一人でなんでも? ひとりぼっちになるって事!? そんなの嫌だよ!」
「そうじゃねぇよ? いいか? いつも誰かに守られて助けられていりゃあ、そりゃ楽だし寂しくもねぇだろう。でも、そうしている間にもぺるぺるは呪いに苦しんでいるかもしれねぇんだぞ? かわいい娘が苦しんでるのに『一人が寂しい』なんて言ってんのか?」
「それは……」
「天ちゃん? 天ちゃんに足りねぇのは自信だ。やればできるっていう自信なんだ。いつも誰かに助けられてやってきたから達成感とかそういうのがねぇんだろう? いつも机の上の書類だけを見て、それを片付けてもう終わりだと思ってる。違うか?」
「書類が無くなれば仕事は終わりだよ?」
「じゃあ、もしぺるぺるの事が書いてある書類が机にあったとしたらどうだ? ただの紙切れ一枚に『呪いに苦しむ娘がいる。何とかして欲しい』って書いてあったとしたら天ちゃんならどうする?」
「一生懸命考えるよ!」
「じゃあ、それがぺるぺるじゃなくて会った事もない男だったら? 真剣に考えるか?」
「うぅ……」
「天ちゃん、神様っていうのは皆に平等に愛を注ぐ存在なんだぞ? 分かるか?」
「そんなの……無理だよ。だってペルセポネと他人だったら、ペルセポネの方が絶対にかわいいもん!」
「そりゃそうだ。オレだって同じだぞ? 他人よりもぺるぺるの方がかわいいさ。でもなぁ、昔……いたんだ。自分の子が化け物だからって閉じ込めて……そんな愚かな父親がなぁ。皆を平等に愛していたらなぁ。それが無理ならせめて嫌っている事を隠すべきだったんだ。でも……瞳が曇ってたんだなぁ。大切なのはその子の容姿じゃなくて、中身なのになぁ」
おじいちゃん?
ポセイドンの事かな?
でも、違うようにも聞こえるね。
「晴太郎? 誰の話?」
「んん。ぺるぺるは誰が見てもかわいいさ。天ちゃんが大切にするのも良く分かる。じゃあ、もしぺるぺるが化け物みたいな容姿だったらどうする?」
「そんなの分からないよ。だってペルセポネはかわいいもん」
「……そうか。天ちゃん? 見た目だけ……表面だけを見て動くのはダメだぞ? 天ちゃんは神だ。皆が、にこにこしながら近寄ってくるだろう。でもそんなのは作られたもんだ。腹の中じゃ何を考えてるかなんて分からねぇぞ? 疑えとは言わねぇ。いいか? 大事なのは相手の気持ちを知ろうとする事だ」
「相手の気持ちを知る?」
「そうだ。毎日書類だけを見てると全部紙の上の事だと錯覚しちまうんだ。でも、特に陳情書には助けて欲しいっていう気持ちが入ってるんだ。その気持ちを知ろうとしねぇとなぁ。印だけ押して終わりじゃねぇんだぞ? 慣れってやつは怖くてなぁ、いつの間にか何も感じなくなっちまうんだ」
「……晴太郎は何を言いたいの? 難しくて分からないよ?」
「気づいたら……ひとりぼっちになってた……なんて辛過ぎるだろ? 無意識に、いつの間にか神の座にふんぞり返って座っていた。神だから何をしても許されるって錯覚する。……なんて事にならねぇようになぁ」
「……? 晴太郎?」
「さぁ、天ちゃん。ぺるぺるをよく見てみろ? 何かに気がつかねぇか?」
「……? うーん。かわいいって事しか……あれ?」
え?
もしかして気づいたの?
魔族の皆も第三地区の皆も身を乗り出しているね。