お別れの時は近づいているんだね
「……平民は暴れなかったの?」
おばあ様が驚いているね。
「……うん」
「そう。不思議ね。公開処刑の後にはだいたい暴れる平民がいるものなのに……」
「お兄様は大丈夫かな? 今頃一人で苦しんでいるはずだよ」
「ココちゃんが早く王妃になれば共に苦しみを乗り越えられるでしょうけど。でも……ヘリオスとココちゃんは海賊として暮らしてきたから貴族と平民の関係をよく分かっていないところがあるようね」
「……わたしもだよ。まさか、人間の身分制度がこんなに厳しいものだったなんて」
「身分制度を無くすのは……無理でしょうね」
「おばあ様……」
「けれど、このままこの厳しい身分制度が続けば平民の不満は爆発するはずよ? そうなれば怒りの矛先は王族に向かうわ」
「……お兄様が心配だよ。お兄様とココちゃんが処刑されるなんて絶対に嫌だよ」
「大丈夫よ。ヘリオスは姉上が育てたのだから。姉上は誰かさんと違って優秀なの。ヘリオスが王になっても困らないようにしっかり教え込んできたはずよ?」
誰かさん……?
おじいちゃまの事だね。
「……うん」
「ペリドットちゃん? 信じて待つのは簡単なようで難しいわ。心配過ぎて落ち着かないものよね。けれど……ヘリオスは自らの意思で王になる道を選んだの。かなりの覚悟が必要だったはずよ? それでも王になったの。信じましょう? これはヘリオスの代だけでなんとかなる問題ではないわ。何度も代替わりして少しずつ変わっていくはずよ」
「おばあ様……」
「ペリドットちゃんは……それを……見届ける事が……できるのね」
「……! ……うん」
「……そう。だから……ペリドットちゃんは……わたくし達と距離を置こうとしているのね」
「……うん」
涙が溢れてきたよ……
おばあ様は、アルストロメリア公爵と一緒にいる時に翼のあるお母様に会っているから、そのお母様にそっくりなわたしを天族だって分かっているはずだよ。
アルストロメリア公爵はわたしがペリドットの身体を神様から授けられたと思っているけど、おばあ様はわたしが元の身体に戻った事を知っているから……
全て分かっているのに、それを秘密にしてくれているんだ。
「ペリドットちゃんは今までもこれからもずっとずっとわたくしのかわいい孫娘よ?」
「おばあ様……」
おばあ様に優しく抱きしめられると心が穏やかになる。
考えてみたらおばあ様とレオンハルトに出会ってから人間を好きになり始めたんだ。
「わたくしやヘリオス達がいなくなっても長い時を生き続けるのね」
「……うん」
「どうか……」
「……?」
「『泣かないで』なんて無理ね。大切な家族を喪ったのに『泣くな』なんて無理だもの。だから……たくさん泣いたら……前を向いてね?」
「おばあ様……」
「そして……いつか、わたくしを思い出して笑って欲しい」
「……うん。うん……」
すぐにお別れの時が来るんだろうな……
考えたくないけど……
これが現実なんだね。




