確かにわたしは自分の事だけでいっぱいいっぱいだからね
「……え? 何が?」
ベリス王が嬉しそうに笑っている?
オケアノスと楽しく話せたのかな?
「あぁ……オケアノス様と話をしていたのです」
「そうみたいだね。わたしには聞こえなかったけど……」
「聞こえなかった……? 同じお身体にいるのに……ですか?」
「……オケアノスの子守唄がずっと聞こえていたよ」
「……子守唄が……ですか?」
「こんな事は言いたくないけど……すごかったよ……」
「すごかった……?」
「音痴……っていうか。合っていそうで合っていない気持ち悪さ……? あ、悪口じゃないよ? 独創的……? 他に何か言い方はないかな? うーん……」
「はは! そうですか(わたしの音痴はおじい様似だったか)」
「……え?」
おばあちゃんからベリス族はオケアノスの子孫だって聞いているけど、ベリス王とわたしはそれを話した時間を戻されているからね。
今は知らない振りをしておこう。
「なんだか……すごく心が軽くなった気がするよ。どうしてかな?」
「そうですか。先程までのぺるみ様の心のモヤモヤはオケアノス様の感情だったのかもしれませんね」
「オケアノスの?」
「話していたら仲良くなれました」
「……そっか」
「ぺるみ様。今は難しく考えずに目の前にある問題だけを見ていきましょう」
「ベリス王?」
「未来は日々変わるものですから。今考えても明日にはまた状況は違っているのですよ?」
「……うん」
「会った事の無い他人を心配する必要もありません。知り合いだけの心配をすればいいのです。というよりは、自分だけの心配をするのが当たり前の世の中なのですから、知り合いの心配もしなくていいくらいです」
「自分だけの心配……確かにわたしは自分の事もまともにできないのに他人の心配をしている場合じゃないのかも……」
「わたしは他人の為に頑張るぺるみ様も好きですがね」
「遠回しに空回りしているって言われているような……」
「ははは! まあ、いいではありませんか。ぺるみ様らしく前に進めば」
「うぅ……そうするよ」
ベリス王の感じが変わったような気がする。
オケアノスと何かあったのかな?
すごく楽しそうに見えるよ。
「それで……聖女様のお母上とはお話をしたのですか?」
「あ……まだだった!」
この世界のやり方は分からないから……
群馬の時みたいに手を合わせて……
「……? それは何ですか?」
「ん? 群馬ではこうやって亡くなった家族とお話したの。もちろん会話はできないけどね」
「なるほど。亡き者を大切に想っていたのですね」
「うん。……ルゥのお母様。お兄様を見守ってください。きっとすごく心細いはずだから……よろしくお願いします」
「……ぺるみ様の事はよろしいのですか?」
「え? わたしは……本物のルゥじゃないから。それにルゥのお母様も二人も見守ったら疲れちゃうでしょ?」
「そういうものなのですか?」
「うーん。よく分からないけど……それに、わたしには家族がいっぱいいるから」
「……え?」
「ハデスもおじいちゃんもおばあちゃんもお父様もお母様も。ヘラ達もいるし、第三地区の皆も魔族も。皆すごく大切な家族なの。わたしには家族がいっぱいいるのにお兄様は一人きりだから」
「わたしも……家族の中に入っていますか?」
「え? もちろんだよ? あ、迷惑だった?」
「……いえ。そうですか……家族……良い響きですね」
「わたしは群馬では、おばあちゃんと二人きりだったから今は大家族になれて嬉しいんだ」
「……本当にぺるみ様は真っ直ぐですね」
「え?」
「いえ。そろそろ帰りましょうか。子供達とパートナーに会いたくなりました」
「うん! わたしも第三地区に帰りたくなったよ」
「帰ったら家族が待っている……当たり前のように思えるかもしれませんが……素晴らしい事ですね」
「うん。あ! しまった! ベリアルにお菓子のお土産を頼まれていたんだ!」
「それは困りましたねぇ。この時間ではお店は開いていませんし」
「うぅ……どうしよう」
お土産を持っていかないと嫌われちゃうよ。




