わたしはやっぱり偽善者なんだよ
「ぺるみ様……大丈夫ですか?」
ベリス王が心配してくれているね。
「うん。大丈夫……わたし……本当に嫌な子だよ」
「……え?」
「少し……出かけてもいい? このまま帰ったら皆に心配させちゃいそうだから」
「……はい。わたしもその方が良いかと……とても辛そうなお顔をされていますよ?」
「付き合わせてごめんなさい。ルゥの母親と……お話ししたくて……」
「聖女様のお母上と……?」
空間移動でシャムロックのルゥの母親が眠る墓前に着くと、ベリス王が話し始める。
「聖女様のお母上は確か……」
「うん。連れ去られて、船上でお兄様とルゥを産んですぐに亡くなったの」
「権力争いに巻き込まれたのですね」
「……うん。命がけで産んだルゥを……わたしが殺したの」
「……ぺるみ様」
「そして、お兄様は……今酷く苦しんでいるはずだよ」
「苦しんでいる……? 人間の豹変ぶりを見たからですか?」
「ある程度は予測していたはずだよ? でもその感情を目の当たりにしたから……貴族と平民との確執を今まで以上に痛感しただろうね」
「リコリス王を手助けするのですか?」
「……ううん」
「……ぺるみ様?」
「本当は助けたいよ? ずっとずっと守ってあげたい……でも……やっぱり……それはダメだから」
「我慢しているのですね」
「……うん。ここから先は……人間であるお兄様とココちゃんに任せるって決めたの。ココちゃんが望んだ通り……そうするよ」
「人間の事は人間に任せる……それでよいのです」
「……うん。わたしね? 処刑を見たらどんな気持ちになるんだろうって思っていたの。魔族の家族と暮らしてきたけど人間を食べるところは一度も見ていないし……あぁ、魚族が人間を襲うところは見たけど……でも……人間が死ぬところを見るのは辛いかなって……でも、なんとも思わなかった」
「なんとも……ですか……」
「知り合いじゃなかったからなんだろうね。知り合いだったら……処刑をとめようとしたはずだよ」
「……そうですか」
「わたしは知らない人間がどうなろうがなんとも思わないの。でも……知り合いが辛い思いをするのは嫌なの」
「それは普通の事です。それを酷い事だと思うのですか?」
「ジギタリス公爵が処刑されて……知り合いの市場の人間が歓喜している姿を見て……貴族に虐げられてきたから仕方ないって思ったの。それほど酷く傷つけられてきたんだから喜ぶのは当然だって。でも……もし……処刑されたのが知り合いの貴族で、歓喜していたのが知らない人間だったら? わたしは貴族の味方をしたはずだよ。結局わたしは……身勝手な偽善者なんだよ」
「心があるのですから仕方ありません。会った事がない他人より知り合いを大切に思うのは当然ですよ?」
それは……そうかもしれないけど。




