公開処刑
「ぺるみ様……楽しそうですね」
ベリス王が話しかけてきたね。
もうジギタリス公爵の処刑の時間か。
「……うん。もう行く時間?」
「……はい。一応ローブを着てください」
「そうだね……」
何があるか分からないからね。
「お出かけですか?」
お花ちゃんが話しかけてきたけど……
公開処刑を見に行くなんて言えないよね。
「……うん。ちょっと人間の国に行ってくるよ」
「そうですか。……? 大丈夫ですか? 顔色が……」
「大丈夫。少し遅くなるかもしれないけど……」
「……はい。お気をつけて……」
心配させちゃったみたいだ。
申し訳ない事をしちゃったよ。
「あはは! くすぐったいよ!」
ベリアルはおばあちゃんに、たらいのお風呂に入れてもらっているね。
すごく楽しそうだよ。
「ぺるみ……気をつけてな?」
おばあちゃんは、わたしが公開処刑を見に行く事を知っているんだね。
「……うん」
「ん? ぺるみはお出かけか? お土産はお菓子がいいなっ!」
ベリアルは本当にかわいいね。
皆には公開処刑に行く事は黙っていた方が良さそうだ。
また、心配させちゃうから……
「ふふ。ベリアルはご機嫌だね。じゃあ……いってきます」
こうして空間移動でリコリス王国に来たけど……
リコリス城の前に大勢の平民が集まっているね。
わたしとベリス王は時計台の上に隠れているけど……
怖いくらいに静かだよ。
誰も話していない。
あ、市場の皆も来ていたんだね。
いつもニコニコ笑っている市場の人間もこんな顔をするんだ……
真顔で断頭台を見つめているよ。
身体が震える……
今から処刑が始まるんだ。
「ぺるみ様……今からでも……帰りますか?」
ベリス王が心配そうに話しかけてきたね。
「……ううん。大丈夫」
……!
太鼓の音かな?
低い音に空気が振動するのを感じる。
あ……
あれがジギタリス公爵……?
他にも何人か見えるね。
ゆっくり断頭台に歩いている。
平民達の顔が高揚していくのが分かる。
「「「……!! ……!!」」」
平民達が怒りに任せて叫んでいる。
公爵に石を投げる平民もいるね。
あぁ……
これが日頃虐げられる平民の怒りなんだね。
「……! ……!」
ジギタリス公爵が何か叫んでいるけど平民達の声が大きくてここまでは聞こえてこないよ。
「あ……」
お兄様の姿が遠く離れたバルコニーに見える。
公開処刑を見ているんだね……
あそこはお兄様の誕生日の宴の時に立った場所だ。
あの時は平民達が笑顔で幸せそうに見えたのに……
今は全然違うよ。
平民の皆から憎悪が溢れている。
……どっちが本当の姿なの?
お兄様の表情は遠くてよく見えないけど……
この状況に驚いているはずだよ。
そして平民達の貴族に対する恨みの深さを知ったはず……
お兄様はどうやってこの平民達の王様であり続けるんだろう。
常に死と隣り合わせなんじゃないかな?
「始まりますよ……」
ベリス王が真剣な瞳で断頭台を見つめているね。
「……うん」
あぁ……
これが処刑なんだね。
粛々と刑が執行されていく。
処刑される公爵家の人間の悲鳴と恨みに満ちた言葉だけが響いている。
平民達は一言も話していない。
ただ黙って落ちていく首を見つめている。
そして、その瞳からは強い憎悪を感じる。
全員の処刑が終わったね……
「「「うわあぁぁぁぁあ!!」」」
平民達が大歓声をあげている……
すごく怖い顔だ……
今ここに貴族がいたらどうなっていたか……
だから午前中でアカデミーが終わったんだね。
貴族には午後から外出禁止令が出ているはずだよ。
このまま平民達が貴族の邸宅に乗り込んで暴れ出さないといいけど……
「……! ……れ! 皆! 聞いてくれ!」
……?
誰かの大声が聞こえてきた?
この声は……
市場の相談役?
来ていたんだね。
「皆! 聞いてくれ! 姫様は……聖女様は我らの幸せを願っておられる。分かるな? この混乱に身を任せて貴族を攻撃してはいけない!」
……!
相談役……
今のって……わたしの事……?
「聖女様は命がけで我らを救ってくださった。我らの為に涙を流してくださった……これ以上悲しませてはいけない!」
静まり返った処刑場に相談役の声だけが聞こえる。
「聖女様は貴族の馬車にはねられたジャックを……血を吐きながら助けてくださった。聖女様は……かなり無理を……また……我らの為に命を落とされるのではないかと心配なのだ。今我らが貴族を襲い怪我をすれば聖女様はまた無理をして治癒の力を使うはずだ。それだけは避けなければ!」
相談役……
泣いている……
わたしの為に泣いているの?
「さあ……家に戻ろう。明日も朝からキャンディを作らないと。ヒヨコ様と聖女様が買いに来てくださるはずだからな。皆も戻ろう……家族や大切な誰かが待つ家に」
相談役の人柄のおかげかな?
それとも……
平民達は日頃から激しい感情を器用に隠しているのかな?
さっきまでの興奮が消えて、皆が静かに帰っていく。
警備の兵士達は平民が暴動を起こすんじゃないかとピリピリしていたみたいだけど……
この静けさが逆に怖いよ。
溜め込み過ぎた感情が爆発したらどうなるんだろう。
そうなったら王様をしているお兄様は……
ジギタリス公爵みたいに処刑されるの?
そんなの絶対にダメだよ!




