天界での秘密のお話(3)
「父上を第三地区に……確かに天界よりは遥かに過ごしやすいだろうが、来たがるかどうか……」
ハデスも天界では闇に近い力のせいでかなり辛い思いをしてきたみたいだからね。
「ハデスちゃん……クロノスに二日後に絶対に会いに行くからと伝えてくれ」
おばあちゃんはタルタロスに行くんだね。
「分かった。……だが父上は……タルタロスからは出たがらないと思うが」
「ハデスちゃん……?」
「独房とは名ばかりで、あそこはこれ以上ないほどの快適な空間だからな」
やっぱりね。
タルタロスの独房は一流ホテルみたいだったからね。
「確かにクロノスおじい様にとっては快適かもしれないけど……側付きの天族は青空を見たがっていたよ?」
数千年もタルタロスに閉じ込められているんだから、空とか海を見たいはずだよ。
「側付きの天族?」
ハデスが不思議そうに尋ねてきたね。
「うん。敬語を話す方の天族だよ?」
「……敬語を話す方? あいつは本当にそう言ったのか?」
「え? うん。『今でも空は青いか』って」
「……ああ。なるほどな。そういう事か。あいつは引きこもりというか……外に出て活発に動くよりは独房で一人の時間を楽しみたい感じがしたな。ずっと鏡を見ていたい……というか。数千年前にタルタロスを明るくしたら日に焼けるからこれ以上は明るくするなと怒っていたぞ?」
「……え? そうなの?」
ナルシスト……とか?
確かに綺麗な天族だったけど。
「ちなみにもう一人はかなり頭が良いな。難しい書物をずっと読んでいるようだ」
「確かに色々知っていたよ。へぇ、勉強が好きなんだね」
「健康の為には散歩が必要だと、毎日決まった道を決まった時間に歩いているとコットスが言っていたな。食事も睡眠も毎日同じ時間らしい」
……同じ時間に?
クロノスおじい様は手がかかるんだよね?
自分の時間を満喫する事なんてできるのかな?
……やっぱり……クロノスおじい様は……
でも、それはわたしが言う事じゃないよね。
「……そっか。もしかしたら三人共タルタロスから出たがらないかもしれないね。あ、でももし三人がタルタロスからいなくなったらコットス達はどうなるのかな?」
タルタロスの番人である必要があるのかな?
「コットス達は天界に行っても迫害されるだろうからな。タルタロスに残りたがるだろう」
「そうだね。悪い大天使はいなくなったけど……やっぱり天界はそういう所だよね……」
「天界は変わらないだろう。生まれ育った場所ではあるが……わたしも天界を好きにはなれない」
ハデスは闇に近い力のせいでずっと辛い思いをしてきたから、コットス達の気持ちがよく分かるんだね。
クロノスおじい様達はずっとタルタロスにいるのかな?
コットス達は?
おばあちゃんへの誤解はどうなるのかな?
……?
あれ?
何か忘れているような……?
「あ!」
ベリス王と約束していたんだった!
すっぽかすところだったよ。




