秘密が打ち明けられる時(4)
「あの子にも……ウラノスと同じ力があるのは知っている。そのせいで心を酷く壊してなぁ」
おばあちゃんも知っていたんだね。
「同じ力……心を聞く力と遠くを見る力の事?」
「そうだ。物心がつく頃には、かなり傷ついてたなぁ」
「……そう」
「ばあちゃんはそれを知ってその力を消してやろうとしたんだ。でも……」
「消せなかったの?」
「そうだ。時間を戻すにはまた、赤ん坊に戻さねぇとダメだろう? でも、戻したところで力は消えねぇからなぁ。クロノスの心を守る為には……タルタロスに幽閉するしかなかったんだ。あの頃のタルタロスは酷い場所だった。でも、それしかあの子の心を守る方法は無かった。ハデスちゃんが冥王になると冥界もタルタロスもかなり住みやすくなったけどなぁ」
「おばあちゃん……もしかして……冥界にお菓子を?」
「バレたか。そうだ。ばあちゃんにできるのはそれくらいだった。クロノスはお菓子が大好きだったからなぁ。ハデスちゃんがヴォジャノーイ族になって追放されてからは、ばあちゃんがお菓子を用意したんだ。冥界の門の外側に毎日置きに行った。でも……会いには行けなかった。会ったら我慢できなくなりそうでなぁ。抱きしめてずっと一緒にいたくなる。でも……あの子をタルタロスから出せばあの子は……また他人の心を聞いて辛くなるはずだ」
「だったら……でもクロノスおじい様はそれを望むかな?」
第三地区なら暮らしやすいんじゃないかな?
でも酷い身分制度に苦しむ人間の感情が流れ込んできたら……
「月海?」
「あぁ……いや……独房の家具とかもおばあちゃんが用意したの?」
「家具は最初から独房に入れておいたんだ。ハデスちゃんはそこまで気が利かねぇからなぁ。他の物は、冥界の門の外側に色々置いて手紙を入れてなぁ。タルタロスに運ぶようにって書いておけば、あとはケルベロスが全部やってくれた」
「ケルベロスが? 誰が置いたのか調べないでタルタロスに持っていったの? それに、最初から独房に家具を入れたって……?」
「あの頃のケルベロスは疲れ果てていたんだ。今よりもかなり疲れていて、ろくに覚えてねぇはずだ。それと、ハデスちゃんがいなかった間のお菓子は天族からの差し入れだって紙に書いて置いておけば運んでくれた。毒が盛られてねぇかはケルベロスには簡単に分かるからなぁ。毎日だったからクロノスに近い奴が置いたのは分かってたはずだ」
「疲れ果てていた? 記憶を消したんじゃなくて?」
「その必要もねぇくらい疲れてたんだ。あれは冥界が変わる時だったからなぁ。何年もまともに寝てなかったはずだ」
「……そうだったんだね」
「今は少しは寝られるみてぇだなぁ」
少しは……?
やっぱり忙し過ぎて熟睡はできないんだね。
「でも……クロノスおじい様の独房には鉄格子はあっても扉はなかったんだよね? 食事は鉄格子の間から入れられるだろうけど、少し大きい物は入れられないんじゃ……」
「あの二人の側付きなら独房の間の壁が薄い事に気づくと分かってたからなぁ」
「そこまで考えてあの独房を造ったの? ……ていうより誰に造らせたの?」
「あの天界の戦の後はまだ、冥界の門に決まりがなかったからなぁ。コットス達も天界に行ってたから留守の間にこっそり忍び込んでタルタロスの独房を清潔に創り直して家具も入れた。あの独房はばあちゃんが創造した物だ。まさかうさちゃんが穴を開けるとはなぁ……」
「クロノスおじい様達が安心して暮らせるように考えていたんだね」
「ばあちゃんにできるのはそれくらいしかなかったからなぁ」
「じゃあ……バニラちゃんはどこまで知っているの?」
「魂の秘密には辿り着いたみてぇだなぁ。でもバニラちゃんは天界の神力の光については何も知らねぇんだ」
「魂の秘密……」
「知りてぇか?」
「教えてくれるの?」
「ああ。月海は魂の秘密に何度も辿り着いた。でもその度に記憶を消されたり……自ら消したりした」
「……え? 何の事?」
「月海の記憶は消せねぇんだ。でも時間は戻せる。ばあちゃんは……そうやってベリス王と月海の時間を戻したんだ」
「魂の秘密を知ったから?」
「……いや。今回は違う。ベリス王には心を聞く力があったらしい」
「え!? そうなの!?」
知らなかったよ……




