タルタロスで(7)
「……クロノス様も……今でもずっとガイア様を愛していますよ」
今でも……?
こんな風に閉じ込められていても?
「クロノスおじい様にも……心を聞く力があるの?」
「……なぜそう思いましたか?」
クロノスおじい様の側付きが険しい顔になったね。
「さっき……おばあちゃんが泣いているって言っていたから」
「……心が聞けたり……遠くが見えたりするのは……辛い事のようです」
「……うん。わたしも……そう思うよ」
「ペルセポネ様。ガイア様は……心の中で泣き続けているようです。何千年もずっと……」
「……ずっと。そう……おばあちゃんは今も心で泣いているんだね」
「本当にガイア様に全てを尋ねるのですか?」
「わたし一人で悩んでも解決なんてできないから……それに一秒だっておばあちゃんを疑いたくないの」
「……何かあればすぐに冥界に逃げてください。ガイア様も冥界には勝手に入れませんから」
「……うん」
「ペルセポネ様?」
「今日……ね? 人間の公開処刑があるの」
「……え?」
「わたしは酷いから……知り合いじゃない人間が処刑されても心なんて全然痛まないの。それなのに……おばあちゃんが酷く言われるのは辛くて……本当にわたしは自分勝手だよね」
「……一度……頭をからっぽにしたらどうでしょう」
「え……?」
「難しく考えずに自分らしく素直になってみるのです。クロノス様のように……」
「おじい様みたいに?」
「どこまでも真っ直ぐで……確かに手はかかりますが……こんな風に生きられたら……きっと幸せでしょうね。誰の事も疑わずただ信じて……裏切られた事にすら気づかない。……いえ、もしかしたら……我らには見えないもっと深いところを見ているのかもしれません」
「……もっと深いところを?」
「……ペルセポネ様。空は今も青いですか? 天界は眩しいですか?」
そうか。
タルタロスには空がないから。
「うん。青いよ……」
「……そうですか」
やっぱり天界に帰りたいよね。
ずっとタルタロスに囚われている皆に、おばあちゃんを信じたいなんて言って傷つけちゃったかな。
結局わたしは自分勝手な愚か者なんだね。
でも……
おばあちゃんを疑うなんてどうしてもできないから。
尋ねたら真実を話してもらえるのかな?
記憶を消されて終わるのかな。
考えてみたら今までは深く知ろうとしてこなかったよね。
知ったらダメな事を知ったから記憶を消されたんだって納得して。
たぶんそのたびにおばあちゃんとバニラちゃんは苦しんで……
それなのに、わたしは全てを忘れて楽しく暮らしていたんだ。
嫌な子だよ。
わたしは卑怯者だよ。
こうしている間にもおばあちゃんは泣いているんだ。
もう逃げない。
おばあちゃんに訊くんだ。
全てを話してもらうんだ。
皆が前に進めるように。




