タルタロスで(1)
「ハデス……? 今、扉が……」
突然目の前に扉が現れたよ?
「ああ。タルタロスへの扉は冥界中を常に移動している」
「常に移動?」
「わたしがそうさせたのだ。天界から持ってきた神力の光の力でな」
「……? どうして?」
「……父を……隠す為だ。いつか愚かな天族が父の存在を思い出して処刑しろと言い出した時に時間稼ぎをする為に……な。タルタロスへの扉を見つけるまでに愚かな天族の奴らを皆殺しに……そう考えていたのだ」
「ハデス……」
「だが……それは遥か昔の考えだ。今なら……天族と話し合う道を選ぶだろう。この数千年で……わたしもずいぶん変わったものだな……」
「ハデス……」
……この扉の向こうがタルタロスか。
「ペルセポネ。ここで待っているからな。何かあればすぐに助けに行く。と言っても扉の場所は変わる。だがわたしには扉がどこに出現するか分かるから安心して行ってくるといい。タルタロスにある冥界に戻る扉の場所は変わらないからな」
「うん。ハデス……ありがとう」
よし。
クロノスおじい様に会うのは初めてだね。
ハデスやお母様達を飲み込んで閉じ込めた、わたしのおじい様……か。
ハデスはおじい様の事が大切みたいだけど……
お母様からはおじい様の話を聞いた事がないね。
どんな人なんだろう?
「……ここが……タルタロス……」
確かに少しだけひんやりするけど……
嫌な感じはしない。
冥界よりもかなり暗くて寒かったタルタロスをハデスが変えたんだよね?
でもあまりに住みやすくすると問題になりそうだから独房の中を今以上良い環境にはできないって言っていた。
遥か昔の独房は、かなり酷かったらしいけど……
今はどうなっているんだろう?
「……ここかな?」
うーん……?
鉄格子の間から見える独房の中は少しだけ暗いかな?
でも……想像していた以上に暮らしやすそうだよ?
……高級ベットに高級ソファー?
一流ホテルくらいの設備が整っていそうだけど……
これが独房?
……そうか。
天界の元神様が囚われるレベルの独房ならこれくらいが当然なのか。
タルタロスは鎖で繋がれて寝返りもできないような所だって聞いていたけど。
いつからこんな快適空間になったの?
ハデスがやったのかな?
でもクロノスおじい様の独房には扉が無くて開けられなかったんだよね?
いつ家具を持ち込んだの?
あ……
この独房……穴があるね。
ここにおじい様がいるの?
「……クロノス……おじい様?」
うーん?
姿が見えないね。
ん?
ベットに膨らみがある。
寝ているのかな?
「……クロノスおじい様? あの……はじめまして。孫のペルセポネだよ? ゼウスの娘でハデスの妻の……」
……反応が無いね。
もしかして具合が悪いとか?
「クロノスおじい様? 身体が辛いの?」
やっぱり反応が無いよ。




