あのベリアルが腹筋を割りたいなんて何があったのかな?
(はい。ずっと弟か妹が欲しかったから嬉しいんです)
そっか。
ゴンザレスはゲイザー族で一番若いんだね。
(はい。ゲイザー族はもう増えないんです。それに、ずっと息を殺して暮らしてきたから辛かったんです)
……そうなんだね。
(だから、ぺるみ様に出会ってから毎日が賑やかで楽しいんです)
ゴンザレス……
(今日はたくさん話を聞いてください!)
うん!
もちろん。
(あぁ……楽しいなぁ。あ、そうだ。この話は知っていますか?)
おお!
そうなの?
(この話は?)
……すごいね。
ゴンザレスのおかげでアカデミーの恋愛事情が全部分かったよ。
でも情報過多で頭がフラフラするね。
(あ、ぺるみ様……講義が終わりましたよ?)
え?
もう!?
しまった。
全然聞いていなかったよ。
(あはは。あっという間でしたね)
よし。
次の講義はちゃんと聞くよ。
とは思ったんだけど……
(ぺるみ様。午前の講義が終わりましたね。昼食の時間ですよ?)
ええ!?
ゴンザレスの話がおもしろ過ぎて先生の話が全然入ってこなかったよ。
(あはは。ピクニックに行きましょう)
そういえばクラスの皆は休み時間に全然話しかけてきてくれなかったね。
あれ?
皆が集まって深刻そうに話している?
どうしたのかな?
「皆……どうしたの?」
「あ……ペリドット様……いや、あの……」
前の席のジャックが気まずそうにしているね。
そういえば朝も話しにくそうにしていたけど……
「ジャック……?」
「えっと……お腹空いたなって……」
「……え? あ……うん。そうだね」
何か隠しているみたいだけど……訊いたら良くないよね。
人間とは適度に距離を置かないといけないし。
こうしていつもの木陰でピクニックを始めたけど……
「ヒヨコ様がいないと静かですね」
前の席のジャックの言う通りだよ。
「そうだね。寂しいよね」
「でも、きっと今頃……」
「今頃?」
「ベットでゴロゴロしながらクッキーとかを食べていそうですよね」
「え? あはは。確かに。そうだ! あのね? ヒヨコちゃんの抱き枕がヒヨコちゃんにそっくりなヒヨコちゃんだったの!」
「ヒヨコ様の抱き枕がヒヨコ様にそっくりなヒヨコ様だった!?」
……ヒヨコしか言っていないような気がするね。
でもジャックもクラスの皆も大興奮だよ。
「ぐふふ。堪らないよね」
「はいっ! 想像しただけで鼻血が出そうですよ!」
「やっぱりそうだよね! ヒヨコちゃん……今頃何をしているのかな」
(ベリアルですか? 今は……! あ……)
……?
ゴンザレス?
どうかしたの?
(あ……いえ。どうしてこんな事に?)
え?
どうかしたの?
(あの……泳いでいるみたいですよ?)
……ん?
ベリアルが泳いでいるの?
なんで?
(うーん……あ……うさちゃんと何かあって人魚が何かしたみたいですよ?)
……?
よく分からないね。
(オレにもベリアルが今考えている事しか分かりませんから……でも……腹筋を割るとか、力こぶが……とか考えていますね)
でもベリアルは水鳥じゃないのに大丈夫なのかな?
(普段からちょっと熱めのお風呂に入っているくらいだから大丈夫だと思いますけどね)
なるほど……
あの、ぐうたらゴロゴロしながら頭の中はお菓子でいっぱいのベリアルが腹筋を割りたくなったなんて何があったんだろう。
(そうですねぇ……好きな相手を守る為……? ですかねぇ)
す……好きな相手!?
誰!?
誰なの!?
まさか……
かわいいヒヨコちゃんのガールフレンドがいるの!?
くぅぅ!
興奮してきたよっ!
(……え? またとんでもない誤解を……)
ぐふふ。
ベリアルにガールフレンドが……
堪らないね。
今度こっそりデートを尾行して、がっつり覗きに行かないと!
(……ぺるみ様は……本当に鈍感ですよね)
え?
何が?
(いえ……ベリアルも大変ですねぇ)
ん?
ゴンザレスが遠くを見つめながら呟いたね。
何が大変なんだろう?




