表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

916/1484

大切な家族の未来なら、何が正しいのかなんて簡単には決められないよね

「ぺるみ様……はじめまして……ベリス王のパートナーです。名乗れずに申し訳ございません」


 パートナーさんが疲れきった顔で話しかけてきたね。

 娘さんは壁を叩きながら悲鳴をあげている。

 それにしてもベット以外は何もないんだね。

 暴れた時に怪我をしないようにかな?

 あれ?

 確かパートナーさんは妊娠中じゃなかった?


「あぁ……名は種族間の秘密だからね。娘さんは……いつもこんな感じなのかな?」


「……疲れきると少し長く眠るのですが……今はそうではないようで……一年に一か月ほどこうなるのです。それ以外は今よりはかなり良いのですが……それでも悲鳴をあげたり暴れたり……」


「まさか……」


 前魔王がこの時期に娘さんに酷い事を……?


 吉田のおじいちゃん、おばあちゃん、バニラちゃん、ゲイザー族長。

 娘さんは今、何を考えているのかな?


(うーん……そうですね。前魔王の影が……刀を持って襲いかかってくる幻が見えているようです)


 ゲイザー族長……?

 そんな……

 毎日そんな幻が見えているの?


(そのようですね。眠ろうとするとその時の夢を見て目が覚めて……身体が疲れきっているようです。この季節になると辛かった過去を強く思い出すのでしょう) 


 この季節……?

 ベリス族の島は今は夏なのかな?

 常夏の幸せの島と同じくらい暑いよね。


(拐われたのがちょうど今のように暑い日だったようですね)


 ……それで暑い時期だけ酷く暴れるのかな?

 だったら、この部屋の中だけでも涼しくすればいいんじゃない?


(え? あ、確かに……)

 

 それから……

 この環境は……

 毎日この何もない部屋に閉じ込めているのかな?


(かなり前に、この症状が落ち着いた深夜に外にバラを見せに連れ出したようなのですが……少し暑い晩だったようで途中で暴れだしてバラのトゲで怪我をしたようです)


 そう。

 それからはずっとこの部屋の中に?


(そのようですね)


 部屋から連れ出すのはもう少し後か……

 今はよく眠ってもらう事が一番かな?


(ぺるみ様……心は簡単には元には戻りません。この娘は……元には戻れないでしょう)


 ……それでもやれる事はやりたいの。

 皆がわたしにずっと寄り添ってくれたみたいに。

 皆は諦めずにわたしを支えてくれた。

 だからわたしも諦めたくないの。

 もし、娘さんが過去の全ての記憶を消したいのならそうした方がいいのかもしれないけど……

 今はまだ何も分からない状況だから。


(ぺるぺる? じいちゃんも心を聞いてみたけどなぁ……やっぱり心の中は前魔王の恐怖に支配されてるなぁ。父親や母親の声も届いてねぇし……腹が減るのも分かってねぇみてぇだ。でも身体は暑かったその日を覚えてるんだなぁ)


 吉田のおじいちゃん……

 じゃあ……

 娘さんは……


(父親と母親の事も完全に分からねぇみてぇだなぁ。もう何千年もこの状態だからなぁ)


 そんな……


(じいちゃんは全部の記憶を消してやった方がいいと思うなぁ。また、あんな事になる前に……)


 あんな事?

 それって?


(……ベリス王のパートナーは妊娠してたんだ。でも……)


 でも?


(娘が暴れだして……腹にぶつかってなぁ)


 まさか……


(この事は口には出すな? 皆が傷ついてるんだ。でもこの事を知ってるのはベリス王と妹とパートナーだけだ……いや、ベリス王子も……か)


 妹って?


(そこにいるのはベリス王の妹だ)


 ベリス王の店舗の前でお店をしているっていう妹さん?

 シンプルな服を着ているから侍女かと思ったよ。


(店で働き終わるとここに来るみてぇだなぁ。……本当は、この妹とパートナーが前魔王に拐われるはずだったんだ。でも偶然娘がその場に居てなぁ)


 ……それで今でも、お世話をしに来ているの?


(そうみてぇだなぁ。パートナーとベリス王と妹が交代して寝てるみてぇだぞ?)


 ……赦せないよ。

 前魔王……

 酷いよ……


(ぺるぺる……娘はもう昔を思い出す事はねぇだろう。早く……楽にしてやろう)


 楽に……

 でも……

 ベリス王は……


(ぺるぺる……もう……皆が限界なんだ。パートナーを見てみろ)


 ……吉田のおじいちゃん……でも……


(お月ちゃんが群馬で朦朧もうろうとしてた時の事を覚えてるか?)


 ……うん。

 

(あの時のぺるぺるはまだ小さかったのに、夜中に徘徊するお月ちゃんのあとを付いて歩いてたなぁ)


 ……うん。


(お月ちゃんは朝になりゃ元に戻ってたけどなぁ。この娘は……もう何千年もこうなんだ。その上……胎児を……母親はもう限界だ……)


 楽にする為に……記憶を……消す……?

 ……なんだろう?

 思い出さないといけない事があるような……


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ