あまりに辛過ぎて心が痛いよ(2)
「切り……刻んだ?」
前魔王がベリス王の娘さんを?
「死なない程度に……でしたが……」
「なんて事を……」
「娘の身体の傷は、オークの薬で全て綺麗に治りましたが……心は……よほど恐ろしかったのでしょう……」
「……それでベリス王子はわたしに心を治せるかって訊いたんだね」
「息子が……? そうでしたか……息子はいつも娘を案じていますから……」
「娘さんは……今は?」
「……魔族では心を治せなくて……オークにも何か薬を作れないかと頼んだのですが、心を治せる薬は無いらしく……もしかしたら人間が治療する方法を知っているかと……それで人間と関わる為に商売を始めました。ですが……身近にいる人間に心を治す方法は分からず……わたしは店を大きくして世界中の人間から治療の手がかりを見つけようとしました」
「それで人間相手の商売を始めたんだね」
「ですが……娘の為に人間相手の商売を始めたと知れ渡れば娘を嘲笑う者も現れるかと……いつか心が治った時の為にそれだけは避けたくて……それでベリス族は遥か昔から商売をしていたという嘘を流したのです」
「だからベリス王子にもその嘘の話をしたんだね」
「最近になり人間のプルメリアの第一王子を初代の神が治療すると知りすぐに娘も診て欲しいと頼んだのですが……初代の神に治せる状態ではないらしく……」
「吉田のおじいちゃんにも……治せない?」
「治療は諦めて過去の全ての記憶を消した方が良さそうだと……ですが……そうなれば……娘はわたしやパートナーの事を全て忘れてしまうのです。あの幸せだった全ての記憶が……なくなるなんて……」
「ベリス王……」
「わたしはどうしたら……いつか娘が……わたしを父上と呼んでくれるのではと……期待して……そのせいで娘を苦しませ続けているのではないかと……やはり全ての記憶を消した方が……」
「……」
ベリス王がこんなに取り乱す姿は初めて見たよ……
「この花の飾りは……娘がわたしの為に作った物です。小さな手で一生懸命作る姿は今でも昨日の事のように思い出されます」
「リリーさんの髪飾りじゃなくて娘さんからの贈り物だったんだね」
「息子達には……これはリリーの形見の品で代々のベリス王が受け継ぐ物だと話していましたが……」
「ベリス王子はそれを知っていたみたいだよ?」
「それ……とは?」
「あの時……様子がおかしかったから……」
「様子がおかしかった? ……実は……息子達の中には娘を良く思わない者もいまして……」
「え? お姉さんなのに?」
「両親の愛を奪われたように思うのでしょう……」
愛を奪われた……?
息子さん達は寂しかったのかな?
それとも、両親に大切にされているお姉さんを見るたびに嫉妬していたのかな?
その愛を自分に向けて欲しいって妬んでいたの?
この数千年……皆が苦しみながら暮らしてきたんだね。




