虐げられる平民の気持ち(4)
「ペリドット様……未来は……変わりますか?」
「……え?」
「今のオレ達が変われば……変わろうとすれば……未来は……オレ達の子供や孫が大きくなる頃には……今より良い国に変わってますか?」
「ジャック……」
「変わってますか?」
真っ直ぐな瞳だ。
力強くて真剣な瞳……
「もちろんだよ。誰かが変えようとしなければ何も変わらないんだよ。でも、今の皆が頑張れば未来は変わる。その頃には皆は亡くなっているだろうけど。何の恩恵も受けられないけど。皆の子孫は身分制度の無い世界で暮らす事ができるんだよ」
「……ペリドット様。黄金の国ニホンには貴族がいないって言ってましたよね?」
「……日本は……貴族はいないの。国民は皆平等で、王族は国民の象徴として存在しているの」
「国民が平等……? 象徴ってなんですか?」
「うーん……お手本? って言うのかな? 王族は政治に関わらないの」
「え? それは……どうしてですか? 王族が国を動かすんじゃないんですか?」
「……日本は過去に戦で……多くを失ったの。その時から王族は国民の象徴として存在するようになったの」
「誰が政治をしてるんですか?」
「国民の大人が選挙……投票して国民の代表を決めるの。その代表が集まって国を動かしているんだよ」
「代表……国民……? 平民が政治をしてるんですか? その平民は悪さをしないんですか? 偉い奴は威張るはずです」
「そうだね。悪い事をした代表は国民から叩かれるからね」
「叩かれる?」
「殴るとかじゃないよ? もう代表にはなれないの。悪い奴は誰からも票を入れてもらえないからね。でも、のらりくらりと逃げてずっと代表をしている奴もいるけど……」
「悪い奴は選ばれないから代表にはなれない? 平民が国を動かす?」
「羨ましい?」
「……え?」
「羨ましい?」
「あの……」
「平民が国を動かすなんてすごく良く思えるでしょ? でも実際はね……代表が悪い事をしていたり、国民の代表のはずなのに国民が絶対に嫌だっていう事を無理矢理進めたりするの」
「そんなの……変ですよ。平民の代表なのに平民を傷つけるんですか?」
「悪い事をして記憶にございませんって言ってごまかすの」
「……!? そんな……」
「結局、国民の代表だなんて言いながら自分の都合のいいように進めるんだよ。そして陰で悪さをしてそれを隠すの。もちろん誠実な代表もいるけどね」
「……そんなの……変ですよ」
「そうなんだよ。話だけ聞くと他国は幸せそうに見えるよね。でも実際はどこも問題だらけなんだよ」
「……黄金の国ニホンはすごく平和で幸せなんだと思ってました」
「あ……黄金の国ニホン……そうだね」
日本の話をしちゃったね。
黄金の国ニホンは実在していないから。
「ペリドット様?」
「黄金の国ニホンは身分制度は無いけど問題もあるんだよ。どんなに穏やかに見える国にも問題はあるからね」
「オレ達の子孫は幸せになれるんですか?」
「幸せは人それぞれ違うから。でも身分制度が無くなれば次にまた違う問題が見えてくるはずだよ? 魔素が祓われた後に違う問題が起きているようにね」
「……上手くいかないんですね。ただ幸せに暮らしたいだけなのに」
「皆それぞれ幸せの方向が違うからね。難しいよね」
「はぁ……どうしたらいいんだろう。さらに分からなくなりました」
「そうだね。その時その時にぶつかった問題を解決するしかないんだろうね」
「……はい。オレには難しい事は分からないけど……今は魔術をちゃんと使えるように頑張ってみます」
「うん。わたしもできる限り協力するからね」
考えれば考えるほど分からなくなるよ。
この世界の皆の幸せってなんだろう?
どうなったら幸せが完結するの?
幸せに『こうなったら終わり』なんてあるのかな?




