ずっとあった違和感(1)
「ペリドット様……」
クラスルームに戻ると先生が優しく抱きしめてくれる。
「ありがとうございました。魔素を祓ったと……お身体は大丈夫ですか?」
「うん。わたしは平気だよ。でも……伯爵令嬢は王室騎士団に連れていかれたよ」
「ペリドット様……どのような事情があったにせよ魔素の入った小瓶を持っていればそれは重罪です。ペリドット様が命がけでこの世界の魔素を祓ったというのに……」
「魔素が入った小瓶は商人がおまけにくれた物らしいの。もしかしたら、他の誰かの邸宅にも同じ商人が来ているかもしれない。怪しげな小瓶を家族や知り合いが持っていたらすぐに届け出て欲しいんだ。次は自分が魔素入りの小瓶を渡される被害者になるかもしれないって思って欲しいの。陥れられるのは一瞬だから」
「……そんな。一体誰がそのような恐ろしい事を……」
「まだ何も分からないの。ただ、もし魔素入りの小瓶が世界中にばらまかれたら……また世界が魔素に包まれてしまうかもしれなくて……」
「そんな……またペリドット様が辛い思いをして魔素を祓う事にはなりませんよね? それだけは阻止しなくては」
「先生……ありがとう。わたしを心配してくれるんだね」
「当然です! ペリドット様はわたくしの大切な教え子ですよ?」
「……先生。きっとすぐにお兄様が動き出すはずだよ? 今できる事は魔素入りの小瓶があったらすぐに届け出てもらう事と犯人を捕まえる事。でも犯人の特徴は小太りで頭に布を巻いたような帽子を被っている男性っていう事だけなの」
「小太りで頭に布を巻いたような……うーん。それだけでは……」
「うん。捕まえるのは難しいだろうね」
「では、今できるのは魔素入りの小瓶を持つ人を見つける事ですね」
「瓶を溶かすほどの物だからもし持っている人間がいたらすぐに届け出て欲しいけど……これを利用して伯爵令嬢を助けられるんじゃないかと思うんだ」
「……? 伯爵令嬢を? どのようにでしょうか」
「このまま伯爵令嬢が処刑されると噂が流れたら皆怖がって魔素入りの小瓶を届け出ないと思うの」
「なるほど。確かにそうですね」
「お兄様もそれに気づくはずだから……何とかして命だけは助けたいの」
「ペリドット様……」
「ずっと嫌がらせをされていた皆はそれを嫌がるかな?」
「処刑までは望まないかもしれませんが……貴族の地位は剥奪されるはずです。今まで伯爵令嬢として暮らしてきて……平民に降格してまで生きていたいと思うのでしょうか」
「先生……?」
「その恥辱に耐えられないのならば……一思いに処刑された方が幸せかもしれません」
「……それは」
「あとは令嬢の意思に任せましょう。ペリドット様は優し過ぎます。いつかお心を壊してしまいそうで心配です」
……先生?
なんだろう。
まるで処刑された方がいいみたいに聞こえたけど……




