ティーパーティーと小瓶(8)
「同じ商人が大国で魔素を配っている? じゃあアルストロメリアとデッドネットルにも……」
商人は何をしようとしているんだろう?
「可能性は高いですね。デッドネットル王は上手くやるでしょうがアルストロメリア王は心配ですね」
ベリス王子がいつもの作り笑いを浮かべながら話しているね。
「……アルストロメリア王は良い人間だから助けてあげたいけど……全部やってあげたら王様の為にならないよね」
「そうですねぇ……」
あ、そうだ!
「ベリス王! 見ているよね?」
第三地区から水晶で見ているはずだよ。
「……はい。なんでしょうか?」
早速ヘスティアと空間移動してきたね。
「ペルセポネ……無事で良かったわ」
「ヘスティア……」
「ペルセポネならあの程度の魔素は平気でしょうけど問題はハデスよ。ちょうどドラゴンの島に行っていて助かったわ。そうでなければあんな風にペルセポネを侮辱した人間達を皆殺しにするところだったわよ」
「ハデスは今いなかったんだね。本当に良かったよ」
「それで……ぺるみ様はわたしに何か?」
「うん。ベリス王……商売をしてみない?」
「……商売を?」
「アルストロメリア王は魔素を扱った事が無いの。だから、魔素入りの瓶が見つかってもそれがなんだか分からないし、扱い方も分からなくて困るはずだよ?」
「……まぁ、そうでしょうね。デッドネットル王とマグノリア王は魔素には慣れていますからね」
「今から浄化の力を入れた箱を作るからそれを売ってきて欲しいの」
「……? ぺるみ様がお持ちになればよろしいのでは?」
「わたしは……近いうちに人間とは会わなくするつもりだから……」
「ぺるみ様……では……わたしはその箱をアルストロメリア王に売ればよいのですね」
「……うん。やってもらえるかな?」
「……今後も……さりげなく……アルストロメリア王への手助けを望まれているのですね」
「……うん。……ごめんなさい。人間の手助けなんて嫌だよね?」
「我がベリス族はずっと人間相手に商売をしてきましたから問題ありません」
「……ありがとう」
「それで……金額はどれくらいをお望みで?」
「ベリス王の価格設定は高いからね……金貨五十枚はどうかな?」
「……安過ぎますね。魔素を祓える箱ならば金塊ひとつでも安いほどです」
「うーん。まぁそうだけど……」
「では……今回は特別価格という事でかなりお安くしておきましょう。ですが……今魔素を祓えるのはぺるみ様だけですし、すぐにぺるみ様がわたしを遣わせた事が分かってしまいそうですが……」
「それでいいんだよ。遠回しにわたしが人間から距離を置きたい事を分かって欲しいから。わたしが直接持って行ったらアルストロメリア王を甘やかしちゃいそうだし」
「ぺるみ様はアルストロメリア王に甘いですからね。分かりました。わたしがしっかり儲けさせて……あぁ……いえ。対応させていただきます」
今、しっかり儲けさせて……って言わなかった?
「……あまりやり過ぎないでね?」
「はい。細く長くやらせていただくつもりですから。それに……アルストロメリア王妃が決まれば……」
「ドレスや宝石を全部ベリス王の店舗で揃えさせる約束を取りつけるつもりだね」
「はい。いやぁ……ぺるみ様のおかげでアルストロメリア王と良いお付き合いができそうです」
「……あまりやり過ぎないでねとしか言えないよ」
「ははは。お任せください」
嫌な予感しかしないよ。
「魔族の事に伯爵令嬢を巻き込んで申し訳なかったよ」
「……あの者の性根が腐っていたからこうなったのです。誰かを侮辱しようとしなければこのような事にはなりませんでした」
「……処刑……されるのかな?」
「これは人間が決める事です。ぺるみ様が傷つく事ではありません」
……わたしが魔素だって言わなければ良かったのかな?
でも、そうしたらお菓子を食べた人間は死んでいたはずだよ。
どうするのが正解だったんだろう。
どうしたら伯爵令嬢は生き残れるのかな?
 




