ティーパーティーと小瓶(6)
「……ずいぶん……酷い事を……言うんですね」
伯爵令嬢の声が震えているね。
「今気づかないと……あなたは死ぬ事になるから……」
「……え?」
「生きたいのなら、なりふり構わず『生きたい』って叫ぶんだよ。他人にどう思われてもいいの。だって自分の命なんだから。だから……死に物狂いで生きて」
「……処刑から……逃げる……?」
「違うよ。立ち向かうの。逃げる場所なんてない。逃げたら罪はさらに重くなるの」
「……そんなの……できない……」
「あなたのせいで家族が殺されるかもしれなくても?」
「……!」
「考えるんだよ。生き残る方法を……」
「……分からない……どうしたら生き残れるか……」
「もうすぐ兵があなたを捕らえに来る。あなたは魔素で他国の王女とこの国の貴族令嬢を皆殺しにしようとした罪で捕らえられる」
「……! わたし……どうしたら……」
「……ひねくれた心を捨てて心から反省するんだよ」
「そんな事で生き残れるはずがありません」
「他に方法は無いんだよ。わずかな希望にすがるしか助かる道はないの」
「死にたくない……」
「……あなたはさっき戦になったら兵士が死ぬのは当然だみたいに言っていたよね?」
「……それは」
「命は誰でもひとつしかないの。兵士だって死にたくなんてないんだよ」
「……」
「王室騎士団が来たね」
アンジェリカちゃんのお兄さん達だ。
慌てて走ってきている姿が遠目でも分かるよ。
「……わたし……どうしたら……」
「真心だよ?」
「真心……?」
「嘘偽りなく全て話して生き残るんだよ」
「……怖い」
「あなたは……それだけの罪を犯したの」
「……!」
「見苦しくてもいいの。生き残って」
「……わたし……怖い……」
「殿下……! はぁはぁ……お身体は……大丈夫ですか?」
お城から走ってきたのかな?
アンジェリカちゃんのお兄さんは、かなり疲れているね。
疲労回復の力を使ってあげよう。
「うん。わたしは平気」
「学長が鳥を飛ばしまして……はぁはぁ……あれ? 疲れが取れた? あ、魔素とは……一体何が?」
……鳥?
伝書鳩みたいな?
「……この女学生が……商人から魔素の入った小瓶を渡されたらしいの。それをアカデミーに持ってきて……」
「魔素の入った小瓶!? そんな物をアカデミーに持ち込むとは!」
「……魔素だと知らなかったらしいの」
「ですが、そのせいで多くのアカデミーの学生達が危機にさらされたのですよ? 学生だからと赦される罪ではありません」
「……うん」
「とりあえず、罪人を捕らえます。この者ですか?」
「……うん。罪を認めているから……無理矢理拷問したりはしないであげて欲しいの。魔素入りの小瓶を渡してきた商人の特徴も覚えているから」
「殿下……はい。殿下のご学友ですので……ですが……処刑は免れないのではないかと……」
「……被害者はいないから……その辺りを加味して欲しいの」
「殿下……それは難しいかと……」
「うん。わたしは口出しできる立場にはないのは分かっているけど……」
「殿下……ジギタリス公爵の処刑が決まりました。この状況で魔素をアカデミーに持ち込んだ者を赦せば国が揺らいでしまいます」
「まだ大人になりきらない学生でもダメなのかな……」
「……難しいです」
「……わたしは……処刑されるんですか?」
伯爵令嬢が小さく震えながらアンジェリカちゃんのお兄さんに話しかけたね。
 




