ティーパーティーと小瓶(5)
「……不思議です」
伯爵令嬢が尋ねてきたね。
「……? 何が?」
「なぜ助けてくれたんですか? わたしの事が嫌いですよね?」
「うん。嫌いだよ?」
「……はっきり言うんですね」
「どうして婚約者候補に嫌がらせをしようと思ったの?」
「……何もかも上手くいかなくて」
「……? 上手くいかない?」
「侯爵家以上の家門の令嬢は婚約者候補になれるのにわたしは伯爵家で……」
「それだけの事で……?」
「それだけの事……?」
「あなたは……自分が選ばれると思っているの?」
「え?」
「だから、あなたがもし侯爵家以上だったら自分が選ばれると思っているの?」
「……酷い事を普通に言うんですね」
「ねぇ? 王様の事が好きなの?」
「え? それは……素敵だし……王妃は最高の身分だし」
「……王様の事が好きなわけじゃないんだよね?」
「……」
「それなのにお妃候補に嫌がらせをしようとしていたの?」
「それは……」
「どうして? どうして好きでもない王様のお妃になりたいの? 偉くなりたいから? 偉くなったらどうしたいの?」
「え? それは……贅沢をして、どの貴族よりも上の……最高の地位を手に入れて……」
「で?」
「え?」
「それから?」
「……え?」
「確かに王妃は最高の地位だよね。でも毎日遊んでいるわけじゃないよ? 王様の一番の理解者である為に勉強して、どこかの愚かな貴族を牽制しながら他国との繋がりも作る。国母として平民が豊かに暮らせるようにしていかないといけないし……贅沢三昧って言っても王妃が綺麗に着飾るのは他国からバカにされない為だよね? 王妃が着飾らなければ国庫に余裕がないと思われて戦を仕掛けられるかもしれない。国の豊かさを王妃のドレスや宝石が示しているんだよ」
「……それは……そうだけど……」
「わたしは王妃にはなりたくないなぁ。ずっと誰かに見られていて少しでもミスをすればバカにされて気の休まる暇が無いだろうし」
「……」
「……あなたみたいな貴族がそれをしているんだね」
「……」
「他人が持つ豊かに見える物を羨ましがって嫉妬してバカにして……」
「……」
「あなたはバカだね」
「バカ……?」
「あなたも平民や男爵家から見れば豊かなお貴族様なのに」
「……それは……そうだけど……」
「あなたは……自分の行いを恥じるべきだよ。自分の伯爵家の身分を利用して弱者をいたぶるくせに、自分より地位の高い人間に嫉妬して嫌がらせをする。救いようがないよ」
「……それは」
「あなたの行き着く先はどこなの?」
「……え?」
「あなたはどうなりたいの? ココちゃんやアンジェリカちゃんみたいな立派な女性になりたいの? あなたになれるの?」
「……立派な女性?」
「ココちゃんもアンジェリカちゃんも毎日すごく勉強しているよ? 立派な女性になる為に毎日頑張っているの。決して他人をバカにしないで弱い立場の人間を守っているよ? あなたは?」
「……わたしだって毎日アカデミーで勉強して……」
「ココちゃん達はアカデミーが終わった後にも夜遅くまで勉強しているんだよ? 王妃になる為には自国だけじゃなくて他国の勉強もしないといけないの」
「……それは……王妃になるからで……わたしは王妃にはならないから」
「ならないんじゃなくて、なれないんだよ? それは身分のせいじゃない。あなたの人間性が腐っているからだよ」
厳しいようだけどしっかり言わせてもらわないとね。




